10月(2025年)の歌舞伎座は、松竹創立130周年記念の
通し狂言「義経千本桜」です。
三部制で特に第三部は、
A(澤瀉屋型),B(音羽屋型)のダブルキャストで、
どちらも見比べたいところ。
早速Aプロの市川團子さん主演の舞台を観てきたので感想をまとめます。
澤瀉屋の血と芸の復活を見せてもらえた熱い舞台でした。
義経千本桜川連法眼館の場とは?
義経千本桜は、歌舞伎三大名作の一つで、全五段12場からなるお芝居です。
そのうち、「川連法眼館の場」は、四の段の終わりになるので、
通称四の切(しのきり)と呼ばれます。
簡単なあらすじは次の通りです。
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兄である源頼朝に追われた源義経一行は吉野の川連法眼の館に
匿われています。
そこに、母の看病で護衛を離れた佐藤忠信が義経に会いにきます。
預けたはずの静御前と初音の鼓を知らぬと答える忠信に
義経は不信感を持つのですが、
そこに静御前とお供の忠信が現れます。
義経に命じられた静御前が詮議すると、
忠信は鼓の皮にされた夫婦狐の子であることを白状します。
親孝行をしたい一心で忠信の姿に身を変えたという
狐の話に心を打たれた義経は褒美に鼓を与えます。
狐は、そのお礼に館を襲いにきた僧兵を蹴散らし、
鼓とともに山奥に帰っていくのです。
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ちょっとファンタジーなお話で、
狐忠信が狐の本性を表してからのシーンは、
次に書きますけど「ケレン味」たっぷりで目を惹きます。
さらに、親を思う子の情愛にも深く心を打たれるのです。
私もこの「しのきり」で歌舞伎沼に落ちたので、
初心者には超おすすめな演目だと思っています。
特に、澤瀉屋型はケレンが魅力の一つでもあるので、
今月のAプロは市川團子さんが見せてくれた
狐忠信に拍手喝采を送りました。
義経千本桜、澤瀉屋型はケレン味たっぷりで初心者にもおすすめ!
義経千本桜は上に書いた通りの名作なのですが、
特にしのきりの「川連法眼館の場」は
もっと面白く見せる工夫はないか?と言われた
三代目市川猿之助(二世市川猿翁)が
江戸時代の宙乗りの手法などの演出を取り入れ
ケレン味たっぷりの舞台を上演したのが大当たり!
それ以降、このケレンの演出が澤瀉屋型として
上演されるようになっています。
ケレン(外道)とは、歌舞伎の演出の一つで、
アクロバティックな動きや観客の目を驚かせる手法を
取り入れた手法です。
字のごとく、キワモノ的な見方をされ、
一時廃れてはいたのですが、
三代目市川猿之助によりその手法が再評価されるようになり、
今では、古典の作品や新作によく取り入れられるようになっています。
詳しくはこちらをどうぞ↓
「外連」とも書き、主に「宙乗り」「早替り」「本水」などによる奇をてらった演出を指して使われ、広い意味では道具の仕掛けや衣裳の引抜きなどもその一種といえます。歌舞伎においては古くから使われてきた手法ですが、「本道ではない、曲芸的」という意味で明治以降ケレンの演技は遠ざけられ衰退して行きました。江戸時代の歌舞伎は徹底した大衆芸能でしたので様々な工夫や思い切った演出も種々試みられてきましたが、近代に入り社会が西欧化してゆく中で歌舞伎は伝統芸能として歩み、ある意味高尚化してゆきました。
松竹歌舞伎用語案内より
この場では、衣装の引き抜きや、早替わり、宙乗り、などが
ふんだんに使われているので、
ストーリーがわからずとも楽しめる一幕でもあります。
ただし、この猿之助さんがおっしゃっていますが、
「ケレン」だけではなくて、狐が親を思う気持ちと
義経が親、兄弟への思いがオーバーラップされ、
親子の情愛についてもしっかり描かれているのも忘れてはなりません。
義経千本桜、吉野山の感想、10月歌舞伎座第三部Aプロ(2025)
それでは、義経千本桜第三部Aプログラムから「吉野山」についての感想を書いていきます。
「吉野山」は舞踊劇で、
静に付き従っていた佐藤忠信が狐の本性を垣間見せる場面、
静と義経を思いながらの連舞、
半道仇(はんどうがたき)の逸見藤太とのやりとりが
見どころだなあと思いました。
それだけでなく、今回は清元の唱を
清元英寿太夫(尾上右近さん、Bプロの忠信役)が務めていることも話題!
とてもいい声で、しっとりと聞かせてくれました。
忠信が狐ということは、
髪型や化粧でなんとなく想像できる上に、
手や身体を獣のように特徴的に使う團子さんの所作も
目を見張るものがありました。
静役の坂東新悟さんは、しっとりと憂いのある静を
品格たっぷりに演じ、義経を慕ういじらしさに胸キュンとなりました。
さらに、藤太役が、市川猿弥(みんな大好き猿弥ちゃん)さんで、
すっごい舞台が盛り上がりました。
猿弥さんは芸達者で、まんま藤太で
敵ながら可笑しみのあるキャラクターが最高でした。
義経千本桜、川連法眼館の場の感想、10月歌舞伎座第三部Aプロ(2025)
続いて、義経千本桜第三部Aプログラムから「川連法眼館の場」についての感想を書いていきます。
この場は、先にも書いた通り、ケレン味と狐親子の情愛が
見どころのお芝居、私大好きなんです。
一番感動したのが、
「これこそ、澤瀉屋のしのきりだ!」っていうのを観れたこと。
本当に本当に観たかった芝居なんです。
2022年の1月に、4代目市川猿之助さんが演じてから、
この3年間ぷっつりの「澤瀉屋型」は姿を消しました。
それが、市川團子さんの登場で復活したことを
実感できたことが何よりも嬉しかったです。
鼓とともに、宙を駆けていく若き團子さんは
私には希望にも見えました。
同じように感じた方はとても多かったと思います。
さて、その澤瀉屋型、宙乗りだけではありません。
衣装の引き抜きや、曲芸的な動きや舞、早替わり、
さらには親へ孝行したいという願いを痛切に表現し、
心をググッと惹きつけ、揺さぶるお芝居でもありました。
静御前の坂東新悟さんは、ここでは詮議役、
前半は芯の強さを、後半は情の深さを感じられるお姿でした。
義経役は人間国宝の中村梅玉さん。
品格と存在感はまさに、孤高の才あるリーダー義経です。
自分の境遇と小狐の親を思う気持ちを重ね、
涙するシーンはグッときました。
さらに、現役歳長老95歳の市川寿猿さんが
元気な姿で舞台に立たれていることも感動ものです。
もちろん、市川團子さんのご活躍が一番の見どころですが、
澤瀉屋チームとしてのまとまりも素晴らしく
舞台を一体感あるものとして見せてくれました。
いやー本当に感動感動、胸熱な舞台を観られて大満足です。
お読みくださり、ありがとう存じまする。
Aプログラム第一部でも市川團子さんの活躍に目を見張りました。
詳しくはこちらにまとめているのでお読みくださいね。

10月歌舞伎座公演の情報についてはこちらにまとめているのでお読みくださいね。

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