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尾上菊五郎の勘平切腹(仮名手本忠臣蔵六段目)の感想、すれ違いが招く残酷な悲劇

観劇レポート
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歌舞伎座5月公演の第二部が、仮名手本忠臣蔵の四段目・六段目でした。

尾上菊五郎さんが勘平を演じた「勘平切腹」は、

絶対観るべき芝居だったと思います。




 

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コロナ禍の歌舞伎観劇は感染対策に要注意

私が感激したのは5月17日(月)です。

まだ東京都内のコロナウイルス感染はちっとも治らない、

緊急事態宣言を延期している時期でした。

5月の歌舞伎公演は、その影響で初日から11日までが中止でした。

12日からは感染防止に注意を払いながらの上演となりました。

歌舞伎座のコロナ対策はかなり徹底しています。

残念ながら、おしゃべりしているお客さんが10%くらいいますが、

そのくらい、ほとんどの方はスタッフも観客も注意しています。

それも、歌舞伎の幕を下ろさないため、、と私は思っています。

加えて、高齢の方が多い歌舞伎という芸能の特性もあります。

誰かに感染してそれが最悪の事態になったら、、、と考えると

怖くなります。

ですから、注意には注意を重ねての歌舞伎座滞在でした。

尾上菊五郎の勘平切腹が素晴らしすぎた

尾上菊五郎さんが早野勘平を演じる「勘平切腹」に感動しきりでした。



与市兵衛内勘平切腹の場とは?

 

仮名手本忠臣蔵六段目にあたる芝居です。

ここでの見所は、勘平の義父の死にまつわる誤解や、

家臣への参加がかなわないという絶望から、

切腹して命を落とすという流れにあります。

ざっくりとあらすじを説明しますね。

前の五段目で、

君主の大事な場面に、おかると逢引をしていて立ち会えなかった不忠の家臣である(とみなされる)勘平が、

ひょんなことから大金を手に入れ、それを元上司に渡すところが描かれています。

六段目では、家臣団に戻れるぞ、と意気揚々として帰宅した勘平が、

おかるの身売り話を聞き、それを止めようとするものの、

周囲の話から、自分が手に入れた大金は、

義父が手に入れたものであり、

鉄砲で撃って殺してしまったのがその人だったのでは、、と

後悔の念に苛まれるのです。

その決め手になるのが、そこに居た一文字茶屋の女将が

義父の与市兵衛に渡したという財布の柄です。

勘平が手にしていた血染めの財布は、

その布と同じもので作られていたのです。

もしや、自分が殺したのでは、、、と勘平が苦悶する中、

おかるは籠に乗せられ売られていきます。

勘平の態度に疑問を感じた義母おかやが官兵を問い詰めるところへ、

与市兵衛の遺体が運び込まれ、

勘平が、お金を奪うために夫を殺した、とおかやは信じて感情を爆発させます。

何も言えずに、されるがままの勘平。

そこへ、勘平の元上司とも言える不破数右衛門と千崎弥五郎という

2人の侍がやってきます。

勘平が預けた金は、家老大星由良之助から突き返されたと告げにきたのです。

それを聞き、絶望の底に落ち込んだ勘平。

義父殺しの真相を話し、自分の腹に刀を突き立てるのです。

勘平の話を確かめると、与市兵衛の身体にあるのは刀傷、

自分たちが見つけた悪党の斧九大夫の遺体に鉄砲傷があったことから、

与市兵衛を殺して金を奪ったのは斧九太夫で、

勘平が撃った鉄砲の弾がその命を絶ったということが知れます。

つまり、お金は妻を売って用立てたもの、

勘平は義父の仇を討った者ということが明らかになり、

勘平のお金は受理され、仇討ちの一味に加えてもらえることになります。

しかし、切腹した勘平の命の火は、

そこで尽きようとしていたのです。

このような、すれ違いから大きな悲劇に至るお芝居。

仮名手本忠臣蔵の中でも人気の一幕です。



尾上菊五郎の勘平の魅力とは

尾上菊五郎さんは、御歳75歳の大御所役者です。

坂田藤十郎さん亡き後は、

実質的に歌舞伎役者のトップであると言えるでしょう。

歴史物から世話物までなんでもこなしますが、

世話物の江戸っ子を演じさせたら、

そこが江戸の町になってしまうくらいの比類なき役者だと思っています。

音羽屋の芸の特徴として、

女方も立役もどちらもこなしますし、

どっちを演じてもその世界観が抜群なのです。

若い頃はやんちゃで、口上のセリフは菊五郎さんの台詞が一番面白かったなあ~。

本題に戻ります。

尾上菊五郎さんの勘平切腹の魅力を3つ紹介します。

尾上菊五郎の勘平切腹の魅力①:陽から陰への転換

一つ目は、登場した時の意気揚々とした勘平が、

義父の死を知り一点絶望に至る転換に惹きつけられたということです。

これで一気に、舞台が描く世界へと引き込まれました。

はじめのうちは、勘平が着ている猟師の服が、

菊五郎格子だ~っ、親父様の話しっぷりが粋っ、

てワクワクしながら見ていたのですよ。

この場面では描かれていませんが、

あるきっかけで大金を手にした勘平が、

亡君である浅野内匠頭の慰霊碑へ出資し、

これで、また家臣の(仇討ちの)仲間に加われるという希望に満ちて帰宅するんですね。

それで、紋服を持って来させて着替えるのです。

気持ちは、武士に戻っていますから、

おかるの身売り話も断ってやるぞの勢いなのですが、

お才が持つ財布を目にした途端

一気に表情が変わったんです。

表情だけじゃないですよ、発していたオーラも周囲の空気も

一緒に変わったんです。

この財布を見て、勘平は、自分が誤って鉄砲で撃ち殺した相手が義父だった・・と気づくのです。

(事実は違うんですけどね)

ここから先が勘平にとって絶望への一本道とも取れるできごとが起こります。

それを予感させる、この転換が自然にできる親父さまは

やっぱりすごい役者だと思った次第です。



尾上菊五郎の勘平切腹の魅力②:東蔵との絡みに泣ける

勘平切腹のお芝居は、おかるの一行が祇園に向かってからは、

勘平と義母との絡みが見せ場となって最後まで続きます。

そうそう、おかるを演じたのは、中村時蔵さんです。

この方は、菊五郎さんの相手役を務める事が多い女形です。

やっぱりベテランでね、実年齢はいいお年なんですけど、

勘平さんが大好きなおかるの可愛さ、若妻っぽさが見えるのです。

いいコンビだなあとしみじみ思いました。

そして、もう一人、中村東蔵さんとのコンビがまたよかったんです。

東蔵さんは、おかるの母、勘平にとっては義母に当たります。

普通にいい人です。

婿さんは立派な人と信じ、

その人のためにお金を用立てようと、

夫が決断した娘おかるの身売りを受け入れます。

母娘だから、別れは辛い・・・

でも、それを耐えて、普段と変わらぬ態度を見せています。

しかし、待てど暮らせど夫は帰って来ない。

そのうちに、おかるは去り、もしや・・という疑念が沸き起こります。

勘平が落とした布財布、それが決め手でした。

義母おかやは、財布がお才が夫に渡したものだと知ります、

そしてそこについている血痕を見て、

お金欲しさに勘平が夫を殺したと思い込みます。

折悪く、そこに運び込まれる夫の死体。

怒りと悔しさと悲しみで、おかやは自分の感情を抑えることができず爆発するんです。

勘平に詰め寄り、引き倒し、手で打つ。

勘平は、自分が殺したと思っているから歯向いません。

されるがままです。

見ているのが辛くなる場面です。

そして、もっと辛いのがその後です。

不破数右衛門と千崎弥五郎という、

いわば勘平の上司にあたる侍が訪ねてきて、

勘平の望みが絶たれ、切腹に至ります。

そこで初めて、勘平が撃ったのではない、

それどころか、勘平が撃った鉄砲の弾が敵をとったとわかるのです。

それを知り、おかやは、自分の誤解を恥じ勘平の切腹に

心を乱されつつも、夫が作ったお金を不破らに差し出すのです。

この二人のやりとり、感情の流れ、

ダイナミックでありながら、その結末に向けて水のように流れて行く様子、

観ていて本当に惹き込まれました。

尾上菊五郎の勘平切腹の魅力③:幕切れの余韻

3つの書いたけど、それだけじゃないぞと思えてくるぐらい、

後から思い返しても何度も味わえる芝居です。

3つ目にあげたのは、余胤のある幕切れです。

切腹し、虫の息の勘平に、不破らは勘平を仇討ちの仲間に加えるという

血判状を差し出すのです。

悲願をかなえた勘平、しかしもう命の火が尽きる、、というところで幕が引かれます。

この時の菊五郎さんの表情がすごかった。

ぜひ、ここだけでも観て欲しいくらいです。

幕が引かれる前の勘平はまだ生きているんです。

でも、だんだんと瞳が虚ろになっていき、

幕と同時に命が尽きていく、、、そんな表情です。

しばらく、その場から動けませんでした。

それほどにあの表情が強く目に焼きついて残っています。

長々と書き連ねましたけど、

この芝居ほど見るべき芝居はないぞ~~と

私は言いたい!

悲しいんだけど、何度でも観たいいい芝居でした。

あまりの余韻に、切腹最中をお土産に買って帰りましたよ。

読んでくださり、ありがとう存じまする。



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