令和7年9月の歌舞伎座公演(秀山祭)は、
歌舞伎3大名作の一つ、「菅原伝授手習鑑」の通し上演です。
ずっとワクワクしながらこの日を待っておりました。
なぜなら、片岡仁左衛門さんの菅丞相をまた見られるからです。
今月は、若手への芸の継承も大きなテーマであり、
ABのダブルキャストでこのお芝居が上演されます。
私は、全プログラムを見たいので、
昼夜ABともに観劇します。
その通し狂言「菅原伝授手習鑑」(9月歌舞伎座公演)の感想を
この記事では書いていきます。
この公演についての詳細はこちらにまとめております

昼の部Aプロ感想:仁左衛門菅丞相はまさに国の宝!
昼の部Aプログラムを、9月3日に観劇しました。
実は、このプロは8月のうちに全席完売となったほど
関心が高いプログラムです。
それはもちろん、片岡仁左衛門の菅丞相を観たい!
いや、今観ないとこれが最後かも、、という
ファンの切実な思いもあると思います。
昼の部は三つの場が観られます。
それぞれの場の感想を順に書いていきます。
加茂堤:微笑ましい恋人たちの想いが悲劇の発端へ
加茂堤とは、加茂川の土手にある場のこと、
醍醐天皇の病気平癒祈願の最中に、
ここに抜け出してきたのが天皇の弟の斎世親王。
その理由は、かねてから思いを寄せ合ってきた
刈谷姫と初めて会うためでした。
その中を取り持ったのが親王の舎人の桜丸と
その妻の八重です。
八重は、親王の思い女である刈谷姫を連れて登場、
その可愛さ、初々しさと言ったら、
ほ〜っとため息が出るようでした。
刈谷姫は尾上左近さん、
綺麗な可愛らしいお姫様です。
お相手の斎世親王には中村米吉さん。
この方も普段は女方ですが、こういうお役も似合います。
見た目も美しい若い恋人たちの姿を前に、
桜丸と八重も触発されちゃって、
こっちも夫婦なのにあちちな感じ。
なんかカップル2組の熱さに当てられたような感じで
ほっこり幸せなところ、
それをぶち壊すかのように現れたのが三善清行です。
このお役は坂東亀蔵さんで、
半道(はんどう)という道化の要素が入った敵役です。
亀蔵さんは割と実直なお役が多いのですが、
こういうのも嫌味なくできちゃうのが
この方の魅力だなあと感じました。
実は、刈谷姫は右大臣菅丞相の娘(養女)で、
三善のボスである、左大臣藤原時平は、
世を我が手に収めんと企んでいるのですが、
そのために邪魔な菅丞相を追い落としたいと思っているのです。
この刈谷姫と斎世親王の密会は格好のスキャンダル!
証拠を握ろうと必死に迫ります。
が、それを守りたい桜丸も負けません。
両方の争う最中に、
こっそりと刈谷姫と斎世親王はそこから逃げていきます。
それはそれで一大事!
桜丸はなんとかこの場を納めようと
八重に牛車を任せて2人を探しにいきます。
そんなストーリーのこの一幕。
やっぱり印象的なのが女方の美しさ、愛らしさです。
八重役の坂東新悟さんもめっちゃ可愛くって
これは桜丸もデレデレよね、って納得です。
その幸せな場面のイメージが強いほどに、
この後の悲劇の落差が激しく
ちょっと切なくも感じる一幕でした。
筆法伝授:高い身分から一気に罪人へ、無実の菅丞相の転落が酷い
筆法伝授は、勘当された武部源蔵夫妻と
菅丞相との再会の場が
とても印象に残りました。
冒頭は、橘太郎さんの希世(好演です)のねちっこさに辟易、
それだけに武部源蔵夫妻の菅丞相、園生の前に対する
忠義の姿勢が清々しく見えました。
御簾の中から姿を現した片岡仁左衛門さんの菅丞相、
もうどっちがどっちというほどに
そのお芝居の中のお人でした。
神々しくて、ストイックで、
自分の職務と天皇への忠誠心が強く
菅原家の筆法を伝授できるのは
天賦の才ある勘当した元弟子と潔く認め
その責務を果たす場面では
強い緊張感を持って舞台を見守りました。
空気がピリピリどころではなく、
カチカチに張り詰めた感じ、
その中でスラスラと書を書き
あとはひたすら頭を下げ続ける幸四郎さんの源蔵と
目を合わすこともなく事務連絡のみに徹する菅丞相、
すごい対面でした。
これが、演技ではなくてその人になる、
ということなのか、、と圧倒された場面でした。
掟を破って勘当されちゃったけど、
なんとかまた元の師弟の関係に戻りたい源蔵夫婦は
その身なりや態度、発する言葉の端々に
その願いの強さが感じられました。
後半、帝より謀反の罪で蟄居を命じられる菅丞相は
束帯や冠を剥ぎ取られ屈辱的な姿で屋敷に戻るのですが
それでも言い訳を一切言わず、その罪に服する姿が
また潔くて帰って神々しい、
在り方が全て物語ると言いますがまさにそれを体現していたのが
仁左衛門さんの菅丞相です。
ねちっこい希世はさっさと時平がわに寝返っているのも
さにあらんてところです。
一旦帰った源蔵夫婦は、
お家断絶を防ぐために梅王丸から
菅丞相の跡取り息子、菅秀才を預かり
家に連れて帰ります。
六幕目に上演される「寺子屋」での攻防が
どれだけ夫婦にとって重要なのかが
わかる大事な場面だなと思いました。
今回、通し狂言なので、
普段は切れ切れに見ている一幕も
その意味がしっかり伝わるので
やはり通しで見るのはいい機会だと思います。
筆法伝授は、
役者さんがそれぞれの役にはまっていることも
説得力ある場面となることを実感しました。
なかなか見ることのない一場面なので、
今回見られてとても良かったです。
そして、この幕を復活させたのが
初世中村吉右衛門ということなので
これほど秀山祭にふさわしい演目はないと
改めて思いました。
道成寺:圧巻、仁左衛門の菅丞相!国宝の歌六と葵太夫との共演も豪華!
道成寺は、一番楽しみにしていたお芝居です。
菅丞相、菅原道真公は、天神様として崇められています。
その神がかったエピソードと
親子の情愛、正義と忠義など
見どころがぎっしり詰まったお宝のような一幕です。
菅丞相は、自分が無実であることを知っているけど
忠義を尽くす帝の勅命であれば
それに従うことに微塵の疑いも持ちません。
娘であれ、不義密通をしたとあれば
会うことも顔を見ることも拒みます。
とことん、気高い意志の持ち主です。
それが奇跡を生む、木像のエピソード。
無表情でカキコキととした動きの木像菅丞相と
ポーカーフェイスの人間菅丞相との演じ分けが
あまりにも明確!
心情を顔に出さなくても、その高潔さの温かさは
滲み出ているからすごいと思いました。
繰り返しますけど、
「演じるのではなく役になり切る」ことの凄さを
目の当たりにしました。
これがリアル国宝の凄みなんだよなあと
この場にいられること、
片岡仁左衛門さんの菅丞相が見られることの幸せを
噛み締めておりました。
中村歌六(国宝)さん演じる土師兵衛と
尾上松緑さん演じる宿禰太郎の悪どさ。
その人間の欲の醜さがあってこそ
対照的な菅丞相の高潔さが際立つのだとも思いました。
ちょっと滑稽に「悪」を見せる
このお二方の存在も素晴らしいものです。
親子の情愛としては、
菅丞相の着物の裾に縋り付く刈谷姫に
涙を隠しつつ、形見として扇をそっと手渡す場面が
父と娘の深い愛が感じられて強く印象に残りました。
また、夫の刃に倒れた立田の前の仇を
鬼の如く討ち取る覚寿の姿もまた母の愛の強さを
感じた場面です。
片岡孝太郎さんの立田の前、中村魁春さんの覚寿、
どちらも迫力あるお姿でした。
最後、事の真相を見極めたのが、
8尾上菊五郎さん演じる判官代輝国です。
颯爽とした姿、口跡良い語り口、
うっとりするくらいいい男でした。
これも適役、はまり役と見てて嬉しくなっちゃいました。
この人は、事実だけを見ていますが、
情にも篤く菅丞相と刈谷姫の最後の別れを見守るのです。
付け加えますと、
ストーリー展開は義太夫が進めるのですが、
ここにも国宝、葵太夫の存在あり。
そうして、花道を去っていく菅丞相のお顔は
厳しく、しかし無念さも感じられる
心に残るお顔でした。
本当に見どころの詰まった最高のお芝居を見られる幸せに
浸ることができた一幕でした。
昼の部Bプログラムの感想
菅丞相を、松本幸四郎さんが、
武部源蔵を、市川染五郎さんが、
それぞれ初役でお務めになる昼の部Bプロは、
この重要なお役を偉大な先輩からどのように受け継ぎ
自分のお役にしていくのか
その第一歩として、記憶に残したい一幕です。
こちらは観劇したら追記していきます。
夜の部Aプログラムの感想
こちらも観劇したら追記していきます
夜の部B プログラムの感想
こちらも観劇したら、感想を追記していきます。
少しずつ記事を増やしていくので
楽しみにお待ちください。
この9月歌舞伎座公演の詳細はこちらにまとめておりますので参考になさってください!

お読みくださり、ありがとう存じまする。
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