令和4年(2022年)5月は2年ぶりの團菊祭!
初日に第二部、市川海老蔵さんの「暫く」と尾上菊之助さんの「土蜘蛛」を観てきました。
初日だけあり、歌舞伎座は大賑わい、その感想を書きました。
團菊祭についてはこちらをお読みくださいね
暫(しばらく)は市川海老蔵の成田屋のお家芸
歌舞伎演目「暫」は、成田屋十八番のひとつです。
しーばーらーーーくーーの声と共に
大きなたもとを広げて登場する奇怪な主人公
東京オリンピックの開会式に登場し
「座布団持ってる?」とか
「猫に化けてるの?」とか
初めて見る方々から物議を醸しました。
私も友人に訊かれたので
「暫とはね、、」とSNSで説明したら
めっちゃシェアされて驚いたものです。
そう、あの見た目、何?って思いますよね。
ストーリーを知ったら、舞台を観たら、
もっと、何ー?が増しちゃうかも
はい、あんまりストーリーはないんです
市川海老蔵さんのお家である成田屋は
先祖代々江戸の荒事といわれる演目を得意としてきたお家です。
荒事とは、江戸の元禄時代に初代市川団十郎によって創出された
歌舞伎の演じ方の事を言います。
この時代は、武士の力強さ、おおらかさや華やかな見た目が好まれたそうで、
多くの荒事演目が上演されたとのことです。
歌舞伎十八番の中では他にも「鳴神」「毛抜き」などがあります。
その他の演目で有名なのは「菅原伝授手習鑑」の「車引」があります。
荒事では独特な化粧(隈取り)や大げさにしつらえた衣装も特徴です。
まあ、そんな特徴を持つ「暫」は成田屋の定めた歌舞伎十八番の中でも
豪快で荒唐無稽な筋立てが人気の演目なのです。
市川海老蔵さんのお父様の故市川團十郎さんも
豪快な役回りでこの役を務めていらっしゃったことが
記憶に残っています。
*歌舞伎十八番についてはこちらにもまとめています
「暫」(歌舞伎)のあらすじ
鎌倉の鶴岡八幡宮の社前で、清原武衡(きよはらのたけひら)と加茂次郎吉綱(かもじろうよしつな)が争っています。
義綱はは重宝を紛失したために謹慎中の身、
そんな折に武衡との争いとなってしまいます
また、武衡は義綱の許嫁の桂の前に横恋慕をし、
自分のものになるようにも口説いていますが
桂の前は一向になびく様子を見せないのです。
怒った武衡が子分たちに義綱一行の「首を刎ねよ」と命じたところ、
どこからともなく
「し~ば~ら~~く~~」の声が・・・。
花道から現れたのは、鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろうかげまさ)。
正義感強い少年ですが、その紛争は独特です。
大きな袂に横に張り出した鬢(びん)、血気盛んな様子を表す隈取り、
子どもながらにめっぽう強いスーパーヒーローなのです。
権五郎は、皆に向かって自分は何者と自己紹介を始めます。
そして、罪もない人を殺めることは許せないというのです。
武衡は、配下の者を権五郎の元に遣わしますが、
簡単にあしらわれてしまいます。
さらに権五郎は、歯噛みする武衡に向かい、
紛失した義綱の宝も持っているはずと言いのけます。
すると、武衡の配下と思われた
照葉が重宝を持って前に進みでます。
実は照葉は権五郎の従兄弟で、武衡のもとにスパイとして潜り込んでいたのです。
その上、照葉は、小金丸行綱を呼び出します。
行綱は義綱の家宝雷丸を持ち、義綱に差し出します。
照葉、行綱の活躍でお家最高の目処がたった義綱は、
権五郎に後を任せて立ち去ります。
残った権五郎は、巨大な太刀を振り回し、
圧倒的な強さで武衡をぶちのめします。
悔しがる武衡らを尻目に、
権五郎は悠々と花道を引き揚げるのでした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お家再興を目指す義綱方とそれを転覆させようとする武衡方の争いに
仲裁に入る形の権五郎。
それ以外はほとんどストリーはないと言えます。
それが元禄歌舞伎の魅力であったとも言われていて
ストーリーを追うよりも目の前に繰り広げられる
権五郎の活躍や悪者たちとのやりとりを楽しまれるといいと思います。
暫(5月歌舞伎座)の感想
5月2日、初日に観劇しました。
市川海老蔵さんは、なんと10ヶ月ぶりの歌舞伎座です。
しかも、昨年、一昨年と行えなかった團菊際の目玉の演目。
これは、みんな期待するでしょう。
私は、それほどでもなかったのですが、
やはり舞台の魔法には負けますね。
揚幕の奥から聞こえる
「し~ば~~~ら~~~~~く~~」の声に
思わず胸が沸き立ちました。
身を乗り出して、花道からの登場と
そこで語られる「つらね」と言われる自己紹介に耳を澄ませました。
この「つらね」は台詞として決まった型はなく、
その場や世情に応じて語られるということ。
この日の海老蔵さんは
「いずれもさまには、久方ぶりでの歌舞伎座で~~」
「東京オリンピック以来のこのしつらえ・・・」と
茶目っ気たっぷりのセリフを披露しました。
もちろん会場からは大きな拍手、私もね。
色々お騒がせだった海老蔵さんですが、
歌舞伎座の舞台はやっぱり似合うと思いました。
新しいこととか、変な挑戦もいいけど、
やっぱり本家本元で楽しませて欲しいと思うファンはたくさんいます。
古いようでもいつも新しいのが古典の魅力、
それを新しく見せていくことも傾奇者の役目じゃないかと思っちゃうんです。
まあ、その私の思いは置いておいて。
この「暫」、ストーリーとか全く関係ない感じ、
荒唐無稽ですが、
舞台上のみなさんの華やかなお姿を拝めるだけで
権五郎の大立ち回りを見るだけで
ものすごく満足できる演目だなあと思いました。
武衡の役は市川左團次さん、この方もとても大きな存在感を放っていて
問答無用の悪人ぶりが舞台を引き締めていました。
海老蔵さんの舞台ではおなじみの市川右團次さんや市川男女蔵さんは
赤っ面の太っ腹、朗々と響く声が心地よかったです。
中村児太郎さんは艶やかな桂の前、
中村又五郎さんはユニークなタコ入道(鹿島入道震斎)で安定。
片岡孝太郎さんは照葉役、得体の知れない女スパイを怪演していました。
「松島屋の孝姉さん」と海老蔵さんの呼びかけもほんわかしました。
「暫」は面白いです。
わかろうとせずに、面白がって見るのが一番いいと思います。
この権五郎のつらねがこれからどう変わっていくのか?
それもお楽しみだなあ~~
土蜘(つちぐも)は音羽屋のお家芸
第2部の後半は「土蜘蛛」です。
これは新古演劇十種の内とついています。
これは、5代目尾上菊五郎が音羽屋の芸として
能の「土蜘蛛」をベースに作ったお芝居です。
ですから、舞台も能らしくシンプルな松羽目物の設えです。
その後音羽屋の芸として受け継がれていますが、
「土蜘蛛伝説」をベースにした作品は、
市川猿之助さんが演じた「蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)」や
片岡愛之助さんが演じた「蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)」などがあります。
どちらも源頼光を殺して国家征服を企む土蜘蛛を退治する演目です。
音羽屋流は、凝った演出よりも、静と動とのメリハリ、動作の美しさが印象的だと思います。
*「蜘蛛絲宿直噺」についてはこちらに書いています。
*「蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)」についてはこちらに書いています。
土蜘(歌舞伎)のあらすじ
館で病のため臥せっている源頼光(みなもとのらいこう)のもとに
平井保昌がお見舞いにやってきます。
頼光の病は重く、薬や祈祷も効き目を表しません。
頼光は、保昌に病に至った経緯を語ります。
それを聞いた保昌は、なんらかの企みを感じ取ります。
侍女の胡蝶が薬を持ってやってきます。
胡蝶は、京都の近くの紅葉の名所について舞いながら描きます。
気づくと、いつの間にか僧の姿をした男が姿を見せます。
僧は、比叡山の僧智籌(ちちゅう)だと名のり、
頼光の病を治す祈祷をしに来たと言います。
頼光の求めに応じて、様々な語りをする智籌、
祈祷のためにと近づいた智籌の影を見た太刀持ちは、
化け物と気づき、頼光に告げます。
頼光は、名刀膝丸で斬りかかると
正体を気づかれたと悟った智籌は蜘蛛の糸を投げて姿を消します。
頼光は保昌らに土蜘蛛の退治を命じるのでした。
~~間狂言~~
番卒らが庭の石神様に、土蜘蛛退治の無事を祈るため
巫女舞を奉納する。
しかし、神と思った石像は小姓の四郎吾とばれます。
巫女は四郎吾を連れて立ち去り、
番卒らも後を追うのでした。
~~~~~~~
刀の切り傷を負った土蜘蛛が流した血の跡を追い、
保昌はじめ、頼光の家来の四天王らが古い塚にやってきました。
その塚こそが土蜘蛛の住処です。
土蜘蛛は日本を魔界にするために頼光を亡き者にしようとしたのです。
手負いの土蜘蛛は蜘蛛の糸を繰り出し、四天王らを翻弄しますが、
激しい戦いののち、斬り倒されるのでした。
*詳しくはこちらにも書いています
音羽屋・萬屋3代が大集合!尾上菊五郎・中村時蔵らが「土蜘」に向けた意気込み語る(ステージナタリー)#Yahooニュースhttps://t.co/lpThe0JBEm
— kabukist (@kabukist1) May 3, 2022
土蜘(5月歌舞伎座)の感想
前半の「暫」が華やかな舞台だったところから、
一転の能舞台を模した松羽目の舞台。
写実的なイメージがあったのですが、
それは他の土蜘蛛系のお芝居だったか、、と切り替えました。
尾上菊五郎さんの源頼光が想像以上に美しく高貴で堂々とされていたことがまず目を惹きました。
この舞台は、音羽屋3代が揃うところが見ものの一つでした。
頼光の元に智籌が訪れる場面、
ここは菊五郎さんの頼光と菊之助さんの智籌と太刀持ちの丑之助さん、
3人が舞台上に揃いました。
丑之助さんというと、どうしても吉右衛門さんの孫(娘の子)という見方もあるのですが、
やはり、音羽屋の跡取りなのだ、とこの3人の姿を見て思いました。
無理なく彼らに連なる血が想像できたのです。
芝居以上の、阿吽の呼吸が舞台上のやりとりに見てとれました。
見せ場の一つが、
丑之助さん演じる太刀持ちが、菊之助さん演じる智籌が化け物と見抜き、
菊五郎さん演じる頼光へ申し出た場面です。
ここは、頼光の命を狙う敵の出現であり場の空気が一転するところです。
緊張感のある一瞬でしたが、堂々とした丑之助さんが
うまく繋いだなあと感じました。
彼は、演じるたびに力をつけていくと感じます。
太刀持ちであっても品があり、言葉遣いや身のこなしが舞台に溶け込んでいると思いました。
正体を現した智籌は、蜘蛛の糸を巻き、相手を惑わせます。
この糸の広がり方と、その撤収のタイミングが見事で
舞台に一瞬の華を添えているように思いました。
後見さんがどなたか存じないのですが、
音羽屋一門の厚みが感じられる舞台運びです。
後半、正体を現した土蜘蛛と保昌、四天王らとの戦いは
見応えがありました。
大きな動きや迫力といったものはないのですが、
静と動のメリハリがより印象的に魅せてくれるのだと思いました。
これも最終的にはストーリー性というよりも
見栄えの要素が大きい演目だと思います。
そうそう、先に音羽屋3代の共演が見もの、と書きましたが、
萬屋三代の共演もありました。
胡蝶の中村時蔵さん、巫女の中村梅枝さん、番卒の中村萬太郎さん、
四郎吾の小川大晴くんがそうです。
大晴くんも成長著しい子役さんです。
この舞台では、番卒萬太郎さんが小姓大晴さんを見守る支線の温かさや、
巫女梅枝さんが小姓大晴さんを背負って退場する姿に
心が緩みました。
能を元に描かれた演目ですが、シンプルな表現の中に、
歌舞伎の様式や美しさが散りばめられている作品だなということを
シミジミ感じ入った観劇でした。
5月歌舞伎座「團菊祭」は5月27日が千穐楽です。
久しぶりに揃った成田屋と音羽屋が楽しめるのは第2部です。
ぜひご覧いただければとお勧めします。
読んでくださり、ありがとう存じまする。
*尾上菊五郎さんについてはこちらもお読みくださいね。
*尾上菊之助さんについてはこちらもお読みくださいね。
*尾上丑之助さんについてはこちらもお読みくださいね。
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