歌舞伎役者の世界にも名題試験と言われる、昇進試験があるのをご存知ですか?
歌舞伎役者の格付けは、名題下(三階)→名題→幹部と上がっていくのですが、
この名題になるには試験に合格することが必要なんだそうです。
今日は、その名題試験と、名題と名題下(三階さん)の違いについて紹介します。
名題試験は、歌舞伎役者の昇進試験
名題試験とはどんな試験なの?
先にも書きましたが、歌舞伎役者にも昇進試験があるそうです。
それがこの「名題資格審査」です。
①受験資格
受験をするためには、次の2つの要件を満たすことが必要ということです。
1つめは、舞台に立ってから、及び師匠について弟子として研鑽を積んでから10年が経過していることです。
もう1つは、師匠か俳優協会の理事からの推薦を受けることです。
この2つを満たして初めて、受験資格を得ることができるのです。
子どもの頃から舞台に立っている役者なら十代でも受けることは可能でしょうが、
そうでないと幾つになったら受けられるのかしら・・・。
という役者さんもいらっしゃるでしょうね。
資格の2つめを考えると、その機会を得られないまま名題下として舞台に立ち続ける方も
いらっしゃるということです。
②試験概要
試験を行うのは、日本俳優協会の理事の方々です。
理事も皆現役の歌舞伎役者さん、それも大御所と言われるような方々です。
その理事が8~10名ほど揃う時でないと試験を開催することができないため、
2~3年おきの実施となるようです。
試験の内容は、歌舞伎に関する筆記試験と歌舞伎に対する意気込みや姿勢などをテーマにした作文、
そして実際に演じてみせる実技があるそうです。
1回で受かる方もいれば、複数回受け続ける方もいるとのこと。
芸の世界は甘くはないのですね。
③名題披露から名題俳優へ
この試験に合格して「名題適任証」を取得した上で、
諸先輩や松竹株式会社(主な配給元)などの関係方面の賛同を得てから、
名題俳優として認められることになるそうです。
伝統文化の世界ですから、こういうしきたりは厳しそうですね。
歌舞伎という日本の伝統文化を代表する芸能を
継承し発展させていくという覚悟を見せる意味でも、
こういう高い壁があるのではないかと思います。
これは、歌舞伎座に飾られた役者のご挨拶です。
名題になると、こうやって顔と名前を
しっかり印象付けることもできるようになるんですね。
いわゆる御曹司も名題試験を受けなければならないの?
この名題試験は、梨園の御曹司ももちろん受けなければなりません。
舞台に立つ機会が早くからあり、親が師匠という立場では、
いわゆる研修生や部屋子から役者になった方に比べて有利とは考えられますが、
その分プレッシャーも大きいでしょうね。
親からしても、自分の息子が一役者として
他の幹部から評価されるということなのだから、
内心ヒヤヒヤでしょうね。
一緒に受験する同世代の仲間と楽屋で勉強した、
という思い出を語る役者さんの話からは、
相当緊張する試験だということがうかがえました。
名題と名題下(三階さん)の違い
ではここで、名題と名題下(三階さん)の違いを説明します。
○名題とは?
「名題役者」とは、江戸時代に、芝居小屋の正面に掲げられた
名題看板(狂言の題名を記した看板)の上部に、
主要な役者の芸名と紋を載せたところからきたといわれているそうです。
今でも、歌舞伎座や国立劇場に観劇に行くと、
お名前を見ることはありますが、
名題のみなのかというのはわかりかねます。
今の基準でいうと、先の昇進試験に合格し、認められた役者ということですね。
実際の芝居での役の大きさもこの名題かどうかは、
関係しているように思います。
○名題下(三階さん)とは?
名題に昇進していない役者のことを言います。
一門ではない家庭や研修所から、役者のもとに弟子入りすると
大部屋と言われる大勢が共同で使う楽屋に入ることになります。
ここが昔は舞台から遠い三階にあったことから、
三階さんという呼び名もついたのだそうです。
弟子や後見、付き人として師匠の世話などをしながら、
舞台に立っている役者さんがほとんどです。
この名題下の役者さんには、セリフがある役はつきません。
その他大勢とか一同とか、そういう役が多いです。
馬の足、というのもそうですが、
普通のお芝居では、
家来衆とか芸者衆とか町人衆とか、そういう集団の役は名題下さんたちだと思われます。
特に見せ場とされているのが、荒事の場面です。
捕り物や喧嘩など、
大勢を相手に主人公級の人物が、
バッタバッタと切り倒して行く場面。
そこで、トンボといういわゆるスタントシーンを演じるのも、
この名題下さんたちです。
トンボは技術や体力勝負でもあるので、
ちょっとしたお手当てがつくそうです。
そうはいっても、月額1万円くらいなんだとか・・・
身体を壊してしまう方もいる大変な役回りでもあります。
同じ舞台に立つ役者と言っても、
名題と名題下では待遇が大きく違うのです。
最近、廃業してしまう、名題下(三階さん)が増えているらしい
先日、気になるニュースを見ました。
それは名題下の役者さんたちが、
その待遇や将来性から次々と廃業している、という話題でした。
確かに、人の世話をしながら稽古をし、舞台にも立ち、
それでもいい役を与えられずお給料も安い・・・
というところで、せっかく目指した役者の道を諦めてしまう方もいるのだとか。
この2年ほどで10名以上の方が廃業しているだけでなく、
研修生も途中でやめてしまう人もいるのだそうです。
伝統芸能の世界の厳しさ、夢と現実のギャップに
耐えられなくなってしまうのかなあと感じました。
どこもかしこも、人材不足。
歌舞伎の世界もか・・・とため息をつきたくなるニュースでした。
名題下(三階さん)の存在が芝居を支える
そういう名題下さん。
歌舞伎界の人のみならず、歌舞伎を観る方にも周知だと思いますが、
彼らの存在が舞台を支えているのです。
賑やかな祭りの場面に、
粋のいい若衆と華やかな娘が大勢現れ、
やいやいしているだけで舞台に祭りが降りてくるのです。
これが、重鎮の集まりとか人がちょこっとだとか、
想像すると、全くそぐわないことがわかっていただけると思います。
荒事も、トンボをかっこよくきる名題下さんの活躍があってこそ盛り上がります。
脇がいいから主が引き立つ、そういう論理です。
歌舞伎界はこういう世界ですから、
全員が花形役者になることはできません。
ただし、花形役者が際立つ名場面を一緒に作ることができるのは、
意欲と技を持った名題下さんあってこそです。
先のニュースでは、将来を不安視した、
松本幸四郎一門や市川海老蔵などが、
若い門弟を募集したり、名題下でも活躍できる場を作ろうと、
模索をしていることも書かれていました。
名門の役者も、その存在の重要さを認めているのが、
この名題下なのです。
でも、実際には待遇が悪いということもあるそうなので、
そこは改善してあげてほしいなと思います。
舞台は、お気に入りの役者を観に行く、という方も多いと思いますが、
この名題下さんの活躍にも目を留め、
芝居全体を楽しんで観てはいかがでしょうか。
役者が育つのを見守るのも、歌舞伎鑑賞の楽しみですよ。
では、今日も読んでくださりありがとう存じまする。
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