歌舞伎十八番「勧進帳」、あらすじと見どころ、成田屋との関係、弁慶という大きな役の魅力も

歌舞伎十八番「勧進帳」、

数ある演目の中でも人気が高い作品の一つです。

私も、このお芝居が大好きで、何度となく観ていますが、

観るたびに感動を覚える作品です。

歌舞伎座5月大歌舞伎でも上演されるこの「勧進帳」。

その魅力をお伝えします。



歌舞伎十八番「勧進帳」とはどんな演目?

能の「安宅」を題材とした「松羽目物」と言われる演目です。

弁慶の荒事はじめ、登場人物の大きな見栄や、

独特な台詞回しなど、

歌舞伎の様式美がふんだんに取り入れられている上に、

手に汗を握るストーリー展開。

最後まで目が離せないお芝居なのです。

前半部分は、義経主従を救う弁慶の働きと冨樫とのせめぎ合いを、

台詞回しや大きな動きが見られます。

後半部分は、義経と弁慶の絆、冨樫の情が混じった舞踊劇としての側面が見られます。

この前半と後半の差異も魅力の一つ、

1つの演目で様々な楽しみ方ができる「勧進帳」です。

次に、そのあらすじを紹介します。



歌舞伎十八番「勧進帳」のあらすじとは?

ここでは、起承転結に沿って紹介します。

〈起:はじまり 義経一行と安宅の関〉

場面は、北陸道の関所、安宅の関。

鎌倉幕府将軍の源頼朝に、謀反の疑いをかけられた弟の義経は、

家来の武蔵坊弁慶(元山伏)の計画により、

家来とともに陸奥国の藤原一族をたよりに旅をしています。

幕府から、その義経を捉える命令を受けた武士、富樫左衛門は、

関守として、部下の番卒(ばんそつ)たちとともに警戒しているところです。

山伏に扮した家来と強力(荷物持ち)に扮した義経が

その安宅の関へとやってきます。

〈承:それから 勧進帳と山伏問答〉

山伏を厳しく調べているから通せないと言われた弁慶一行は、

富樫たちと押し問答になります。

火事で焼けた奈良の東大寺再建のため、

各地を回って勧進(寄付)を募っていると言う弁慶に、

富樫は「それなら勧進の目的を書いた勧進帳を読み上げろ」と言うのです。

弁慶は手にある巻物を広げ、あたかもそこに書かれているかのように、

勧進帳を読み上げます。

それを聞いた富樫は、山伏に関する質問を次々に浴びせていきます。

弁慶は、それらの尋ねに応じて答えを述べ、冨樫らの疑いをかわしていくのです。

〈転:ところが 義経打擲〉

この様子に納得した風を見せ、冨樫は一行の通行を許します。

しかし、去ろうとした弁慶一行について行く強力が義経に似ていると気づいた番卒が

それを告げたことで、再び冨樫らに呼び止められることになります。

疑いを晴らすため、弁慶は杖を取り、義経を打ちすえます。

それは家来が絶対にしてはならない無礼であり、

そうしてでも主君を助けようとする弁慶の姿に富樫は心を打たれ、

関所を通る許可を与えるのです。

〈結:そして 延年の舞と飛び六方〉

無事に関所を通り過ぎた義経と他の家来たちは、

弁慶の機転をほめ、助かったことを喜びます。

しかし、弁慶は主君を救うためとはいえ、自らの手で打ち叩いた罪に

うちひしがれてしまいます。

その様子を見た義経は手をさしのべてなぐさめます。

そこへ、富樫が追いかけてきて、疑ったおわびのしるしとしてお酒をすすめます。

お礼に弁慶が舞を披露する中、義経と他の家来たちを先に立たせます。

そして自らも、富樫と神仏の助けに感謝したのち、

一行の後を追ってさっていくのでした。



歌舞伎十八番「勧進帳」の登場人物は?

「勧進帳」は登場人物も魅力の一つです。

「勧進帳」の登場人物

武蔵坊弁慶:

源義経の家来。命をかけても主君を守ろうとする。

源義経:

弁慶らの主君。源頼朝の弟。平家との戦で手柄を立てるが、その技量から頼朝に疎まれ、追討される。

冨樫左衛門:

安宅の関書を守る役人。弁慶一行と知りつその忠義に感動して見逃す。

四天王(亀井六郎・片岡八郎・駿河次郎・常陸坊海尊):

義経に従う家来。

弁慶という役どころ、弁慶役者って何?

「勧進帳」の人気に伴い、弁慶・義経・冨樫の三役は、

歴代の看板役者が生涯に一度は演じたいと願う役です。

中でも弁慶は、知恵と武勇と人格に優れた役。

とうとうと読み上げる勧進帳や山伏問答での緊迫感、

酔って自らの思い出を語り舞うおおらかさ、

そして、最後の勇壮な飛び六方と

一役でも様々に様相を変え、見せ場が絶えない、

一瞬も気を緩めることができない大役です。

これを務め上げられる役者は弁慶役者とも呼ばれます。

元々は、市川家の芸であったこの役です。

九代目市川團十郎が亡くなった後、

後を継いだ七代目松本幸四郎は、1600回も演じたということです。

現在の弁慶役者といえば、

二代目松本白鸚、二代目中村吉右衛門ではないかなと

思うところです。

義経は女形が演じることが多く、

冨樫は柄の大きい役者が演じることが多いです。

最近でいえば、七代目尾上菊五郎が随一でしょう。

松本幸四郎(白鸚)の弁慶



歌舞伎十八番「勧進帳」の見所は?

では、たくさん見どころがあるこの演目の中から、

初心者にもぜひ知っていただきたいことを3つ紹介しましょう。

1:松羽目物(まつばめもの)

幕が開くと、左手に五色の揚幕(あげまく)、右手に臆病口(おくびょうぐち)、

後ろに大きな松の絵(鏡板)のある舞台背景が現れます。

この背景は、能・狂言で使用される能舞台をモデルとして作られたものです。

またこの背景を使うということは、ここで上演される作品の演出も

なるべく能・狂言の方法に近づけて行われることを示しています。

能の「安宅」を題材としていることからも、

その様式を取り入れた演出は、

他の歌舞伎とは違った趣を楽しむことができます。

2:勧進帳と山伏問答

あらすじにもありますが、

この演目で目を離せないサスペンスフルな場面です。

読み上げる勧進帳の内容は

「奈良時代の聖武天皇が作られた東大寺は火事で焼けてしまったが、

再建するために資金や物資を集めている。

少額でも寄付をすると現世で良いことがあり、

来世では極楽に行くことができる」というものです。

しかし、内容以上に見所は、

巻物に書かれていつことを伺い見ようとする冨樫と、

見せまいとする弁慶の攻防です。

もう一つ、その後につながる山伏問答では、

この2人の距離がだんだんと近づいていきます。

正体を暴こうと厳しく問う冨樫に対し、

揺らぐことなく瞬時に問いに応える弁慶、

押しも押されもしない2人のやりとりも手に汗握るものです。

3:飛び六方

芝居の最後、花道を去る時の弁慶が見せるものです。

「六方(ろっぽう)」とは、足と手を大きく振り、歩く演技のことです。

寺院で霊や悪鬼を踏み鎮めるために行われた儀礼の歩き方に起源を持つと考えられていて、

民俗芸能などにもよく見られます。

歌舞伎では、多くの場合荒事(あらごと)の演出として、主要な登場人物の退場時に行われます。

ここでの飛び六方は、主君義経のあとを追う弁慶の力強さを、

客席の中を通る花道をいっぱいに使って臨場感豊かに見せる最後の見せ場なのです。



歌舞伎十八番「勧進帳」と成田屋(市川海老蔵)との関係は?

歌舞伎十八番(かぶきじゅうはちばん)は、

江戸時代の天保年間に七代目市川團十郎(当時五代目市川海老蔵)が

市川宗家のお家芸として選定した、18番の歌舞伎演目のことです。

九代目市川團十郎の没後は、

他の役者にもその芸が受け継がれていきました。

そのため、様々な役者が演じる弁慶を観られるようになったこと、

役者の芸を磨く一役となったことは、

歌舞伎界にとってもファンにとってもありがたいことです。

十二代目市川團十郎亡き後、市川宗家の当主となったのが、

十一代目市川海老蔵です。

海老蔵も、多くの舞台で弁慶役を務めてきました。

2020年5月には、十三代目市川團十郎白猿を襲名することが

発表されています。

今後は、成田屋の「勧進帳」も楽しみになります。

「勧進帳」は、歌舞伎初心者でも玄人でも

その人なりの楽しさを味わえる素晴らしいお芝居です。

ぜひ一度ご覧ください。

海老蔵の弁慶

5月は歌舞伎座で、

海老蔵の弁慶、菊之助の義経、松緑の冨樫による

「勧進帳」が観られますよ。

今日も読んでくださり、ありがとう存じまする。