歌舞伎演目紹介「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」〜あらすじ、見どころ、乳母政岡の献身と仁木弾正・八汐のワルっぷりに注目の作品〜

歌舞伎演目紹介、「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」をとりあげます。

これは文楽の演目として上演される作品でもありますが、

ここでは歌舞伎の演目として紹介して行きます。



「伽羅先代萩」とは

仙台伊達家のお家騒動をベースに作られた作品です。

題名の「伽羅先代萩」は、

お家騒動の発端となった伊達家の当主である綱宗が、

廓通いに履いていたとされる

高下駄の材料「伽羅」。

伊達家の土地を表す「仙台(先代)」「萩」。

これらからつけられたと言われています。

当時話題の事件をそのまんま上演するのではなく、

時代背景や登場人物、出来事に脚色を加え、

芝居の作品として仕上げられました。

本作品は、時代は室町時代です。

「足利家」のお話にすり替え、舞台も鎌倉ですが、

随所に「伊達家」「仙台」を匂わせるものが

あります。

伊達家の紋章「竹に雀」を舞台で見られますよ。

物語は、「花水橋の場」「竹の間の場」「御殿の場」「床下の場」「対決の場」「刃傷の場」と、

6つの場から成っています。

よく上演されるのが、「御殿の場」「床下の場」で、

大きな見所もここに集約されているように思えます。

詳しくはあらすじをご覧くださいね。



「伽羅先代萩」の登場人物

この演目の主な登場人物を紹介します。

・政岡(まさおか):幼君鶴千代の乳母。実子を犠牲にしても主君を守る忠臣です。

・仁木弾正(にきだんじょう):お家乗っ取りを企む一派の中心人物。妖術を使い幼君の命をねらう悪人。

・八汐(やしお):仁木の妹。幼君を毒殺しようとするが、それがバレそうになり政岡の実子千松をなぶり殺しにする悪女。

・栄御前(さかえごぜん):仁木に加担する管領山名宗全の妻。鶴千代に毒入りのお菓子を食べさせようとする。

・足利頼兼(あしかがよりかね):足利家の当主だが、叔父の鬼貫らの策略で隠居させられる。

・千松(せんまつ):政岡の実子、幼いながら鶴千代の毒見役でもあり、窮地を救う。

・足利鶴千代(あしかがつるちよ):足利家の幼い当主。逆臣達に命を狙われ、政岡らに助けられている。

・荒獅子男之助(あらじしおとこのすけ):足利家の忠義な家来。床下に潜んで、鶴松を警護している。

・細川勝元(ほそかわかつもと):裁判官の役割をする「管領」のひとり。弁舌に優れ、仁木を追い詰める。

・大兄鬼貫(おおえのおにつら):当主頼兼の叔父で、足利家の乗っ取りを企む敵役。

歌舞伎では、仁木と八汐を1人の役者が2役で務めることがあり、

8月の納涼歌舞伎では、松本幸四郎が2役に挑んでいます。



「伽羅先代萩」のあらすじ

先ほどお伝えした6つの場面を、だいたい3つに分けています。

【第1部】

「花水橋の場」

足利家の当主頼兼は、叔父らの策略により

傾城の高尾に入れあげ、毎日のように廓通いをしています。

ある日、廓からの帰り道、仁木に加担する黒沢官蔵らに襲われますが、

抱え力士の絹川谷蔵らに助けられます。

「竹の間の場」

当主となった鶴千代を守るため、乳母の政岡は、

男を嫌う病気になったと、女性ばかりの御殿で守り育てます。

鶴千代殺害を目論む八汐は、政岡に暗殺の濡れ銀を着せようとしますが、

沖の井や鶴千代の抗弁によりまぬがれます。

【第2部】

「御殿の場」

食事を満足に取れない鶴千代らのために、政岡は茶道具でご飯を炊き、

2人に食べさせます。

その最中、栄御前が持参した菓子を鶴千代に与えようとするのですが、。

その時、千松がその菓子を掴んで口に入れ、苦しみ出します。

お菓子には毒が入っていたのです。

毒殺の嫌疑がかかるのを恐れた八汐は、

無礼者と懐剣を千松に刺し、殺してしまいます。

その間、顔色を変えず見守っていた政岡を見て、

逆臣の一味と勘違いした栄御前は、

仁木弾正一味の連判の巻物を預けて帰って行きます。

見送った後、政岡は千松の死を嘆き泣き崩れますが、

襲いかかってきた八汐を切り、千松の仇をとります。

その間、一匹のネズミが現れ、巻物を持ち去ります。

「床下の場」

床下で警固をおこなっていた、荒獅子男之助は、

巻物を加えたネズミを見つけ鉄扇で打ちます。

ネズミはそのまま逃げ去り、

場を変えて仁木弾正の姿に戻ります。

弾正は巻物を懐に去るのでした。

【第3部】

「対決の場」

老臣渡辺外記左衛門らが、問注所で、仁木弾正と大江鬼貫らと

対峙します。

裁きての管領、山名宗全は弾正に組みしますが、

そこにもう1人の管領、細川勝元が現れます。

勝元は、弾正らの不正を承知しており、

弁舌巧みにその不忠を責め、

忠臣派を勝利へと導きます。

「刃傷の場」

裁きを受けた弾正は、改心を装い、

外記左衛門に近づいて短刀で刺しますが、

外記左衛門の抵抗と駆けつけた者たちの援護により、

ついに倒されてしまいます。

細川勝元は、外記左衛門らの働きを褒め、

鶴千代の家督を保証します。



「伽羅先代萩」の見どころ

第2部の「御殿の場」と「床下の場」の見所が多く、

この2場は上演されることが多いです。

そういう面から、この2場からの見どころを

ピックアップします。

その1:政岡を演じる役者の芸が試される御殿の場

乳母政岡を演じられるということは、

女形としての実力を認められたということとも言え、

歌舞伎の役でも、とても重要な役です。

その理由として、

①前半は「飯炊き」と呼ばれ、空腹に耐える幼い二人のために、

政岡が茶釜を使い、茶道のお点前に則ってご飯を炊く場面があります。

まず、このお手前も大事なので、役者にその心があるかが

試されるシーンである。

②乳母としては、鶴千代と千松への情愛をにじませながらも、

君主としての心得や姿勢を身をもって教える役割もある。

③我が子が目の前で殺されるのを平然(を装い)と見る場面、

母として我が子の死を痛む場面、全く違う表情を演じ分ける力にくわえ、

複雑な背景と心理を、その演技にどう入れるのかが難しいところである。

というところで、この役を演じられるのは、

まだそう多くないんですよ。

もう一つ、政岡の着ている打ち掛け、これにも意味があります。

これは、「雪待ちの松」と言われる模様、

政岡は誰が演じてもこの模様の打ち掛けを着ています。

これは、千松を犠牲にしても主君を守る、

政岡の心情を表しているんだそうです。

辛抱しているかのように、雪を被った松と、

燃えるような決意を表す紅の着付け、

この衣装にもご注目ください。

8月の納涼歌舞伎で初役に挑戦する中村七之助、

どんな政岡を見せてもらえるでしょうかね。

その2:悪役女性の演じ分け、八汐と栄御前

2人とも鶴千代の殺害を企む悪女です。

御殿の場では、毒薬入りの菓子を食べた千松を、

母である政岡の前で残酷な殺し方をする八汐。

この悪人非道ぶりは、私の中では最も許せん悪役です。

これはとてもわかりやすいのですが、

澄ました顔をして毒入りのお菓子を差し出す栄御前も相当なもんです。

千松の残酷なシーンを扇を使って見ないようにしている、

という体で、実は政岡の反応を見ているのですから。

でも、政岡の方がやはり上手で、栄御前はころっと騙され、

八汐は討たれてしまいます。

床下の仁木弾正

床下に現れる大ネズミ、鉄扇で打ち据えられ、

その傷を眉間につけて現れるのが仁木弾正です。

妖術を使う悪人という役柄が、これでもか、と伝わる場面。

本当に、憎々しい感じなんです。

これを当たり役としたのが、五代目松本幸四郎です。

江戸の名役者で、いまに伝わる仁木の型は、

この幸四郎が完成させたと言われています。

実は、弾正の頰にホクロがあるのですが、

これは幸四郎に実際にあったものを模したものと言われています。

江戸時代から継承されている、

仁木弾正という役も大きな見どころです。

「伽羅先代萩」は、残酷な場面があることから、

苦手なお芝居ではあるのですが、

奥深さをもったお芝居なのは事実です。

機会があれば、ご観劇くださいね。

今日も読んでくださり、ありがとう存じまする。