菊宴月白浪は、忠臣蔵外伝の一つです。
歌舞伎ではお馴染みの忠臣蔵ですが、
塩谷判官の家臣でありながら、高家の手先になった不忠者として描かれている
斧九郎兵衛とその息子の斧貞九郎を主人公にしています。
塩谷家再興に向けたストーリーと
大掛かりな宙乗りや仕掛けが楽しい演目です。
歌舞伎:菊宴月白浪(きくのえんつきのしらなみ)とは?読み方、作者は?
歌舞伎「菊宴月白波」、これ読めないですよね〜
読み方は、「きくのえんつきのしらなみ」と言います。
原作は、あの鶴屋南北です。
先にも書きましたが、
この作品は、忠臣蔵外伝の一つです。
前回、この作品が上演されたのが昭和59年(1984年)、
それが163年ぶりだったということ。
当時、再演をしたのが
3代目市川猿之助(現市川猿翁)で、
そのスペクタルな物語は大当たり、
その後、「市川猿之助四十八撰」の一つに
選ばれたのです。
2023年に満を辞して再演されたのは、
4代目市川猿之助さんの思いから。
残念ながら、彼はこの作品を演じることができませんでしたが、
澤瀉屋の役者さんだからこその
チームワークある破天荒なストーリー展開に
魅せられたお芝居でした。
菊宴月白浪の登場人物
忠臣蔵外伝、生き残ってしまった斧九郎兵衛、
塩冶家、高野家の再興を願うところから
両家の関係者が入り乱れて登場します。
斧貞九郎/暁星五郎:不忠者とされた斧九郎兵衛の息子。忍術を取得し、盗賊として塩冶家の再興を図る
塩冶縫之助:塩谷判官の弟、塩冶家の再興を願う
金笄のおかる:塩冶家にゆかりある女伊達。権兵衛と夫婦になるが、実は思い人がいる
石屋仏権兵衛:高野家家臣垣坂の子。浮橋の兄、実は・・。
芸者浮橋:高野家家臣の娘であるが縫之亮と恋仲になり、子を宿す。
加古川:定九郎の妻。辰の年月がそろった生まれ、死してその身体を縫之助のために役立てようとする
高野師泰:高野師直の養子、お家の最高をめざす
斧九郎兵衛:定九郎の父、四十七士に入らなかったことで、不忠者と言われているが、、、
与五郎/直助:定九郎の家臣であったが、高野家の落とし胤ということを知り、心変わりをする
山名次郎左衛門:幕府の重臣、高野家より
石堂数馬之助:幕府の重臣、塩冶家より
菊宴月白浪の簡単なあらすじ
序幕
第1場:甘縄禅覚寺の場
第2場:伊皿子町九郎兵衛浪宅の場
第3場:山名館の場
塩冶家の家臣、大星由良之助が
高野師直を仇討ちをしてから1年。
高野家は師泰が、塩冶家は縫之助が
お家の再興を幕府に願い出ていました。
その条件として
家宝、高野家は菅家の正筆、塩冶家は花筐の短刀を差し出すことになりました。
しかし、奉納する前に、
花筐の短刀は高野家の者によってすり替えられてしまいます。
申し訳に切腹をしようとする縫之助。
それをその場に現れた定九郎が身代わりになると申し出ます。
定九郎は、塩冶家の家臣でありながら、
他家の娘、加古川と深い仲になったことで
勘当された身、
また、四十七士に加わらず「不義士」と言われる父のこともあり
それを払拭する機会と考えたのです。
定九郎の切腹は、父九郎兵衛の家で行うことになりました。
いざ切腹する、となった時
定九郎は上使として居合わせた
師泰と六大夫を一刀の元に切り捨てます。
そして、
高野家の再興を阻むという手柄を
父のものとするために、
ここで切腹し「不義士」の汚名をそそぐように説きます。
九郎兵衛は、実は大星たちが討ち漏らした時に
あと詰の役を引き受けたことを明かします。
しかし、その役目がなく汚名をきてしまったのです。
また、
定九郎には双子の兄がおり、
高野家の家臣垣坂伴内の養子にしたことも明かします。
それを聞いた定九郎は、
塩冶家の再興のため、
紛失した花筐の短刀の詮議と高野家の家宝である菅家の正筆を手に入れるために
盗賊になると近い、暁星五郎と名を変えます。
その決意を聞いた九郎兵衛は、
斧家に伝わる忍術の巻物を定九郎に渡すと
自分の腹に刀を突き立てるのでした。
降り頻る雪の中、
山名の家に押し入った星五郎やその配下の者たち。
山名を討ち、菅家の正筆を
手にいいれます。
二幕目
第1場:浅草新鳥越借家の場
第2場:三囲堤の場
第3場:小名木川隠れ家の場
第4場:両国柳橋の場
斧家に仕える与五郎は、病床の加古川の世話をしています。
そこへ、浮橋が見舞いにやってきます。
加古川は、浮橋に縫之助と別れるよう懇願します。
花筐の短刀の行方もしれない縫之助は
このままでは放埒者と言われることを
恐れてのことでした。
それに納得できない浮橋は与五郎が持つ短刀で
自害を図ります。
その短刀こそが花筐の短刀、
加古川がそれを預かりその場はお開きとなります。
与五郎が1人でいると
洗濯を頼んでいたおとらがやってきて
与五郎が持っていた桐唐草模様のお守り袋は
高野家のご落胤の証拠と告げ、
盗まれた家宝を探し出し、
高野家の再興を果たすよう促します。
初めは取り合わなかった与五郎も、
忠義を尽くす一生も大名としての一生も同じと考え、
花筐の短刀を持ち家を出ようとします。
それを止めた、加古川を殺害すると、
川に流すため布団にくるみ家を出ます。
そこへやってきたのが
提灯の灯りを借りたいという石屋の権兵衛。
急に灯りが消えた家を訝しむ権兵衛は、
与五郎とすれ違いざまに
お守り袋を抜き取ります。
夜の隅田川沿いの三囲堤、
芸者となった浮橋と三味線持ちになった縫之助が通り過ぎます。
その後から、
おかるから財布を盗み取った父与一兵衛がやってきます。
その財布に目をつけたのが今は直助と名乗る与五郎。
直助は与一兵衛を殺して財布を奪います。
浮橋と一緒にきた兄である権兵衛は、
突然、浮き橋をお腹の子もろともに手にかけます。
高野家の家臣の子なのに、
塩冶の家の縫之助の子を宿したことに
主君のためとしてのことでした。
そこへ駆けつけた縫之助の肩先も切りつけます。
浮橋は、権兵衛は斧定九郎の双子の兄であることを告げ
息を引き取ります。
呆然としつつも、そこを立ち去ろうとした時に
女伊達のおかるがやってきて、父の死骸に気づきます。
前から、おかるに気のあった権兵衛は、
父の助太刀をするから夫婦になろうといいます。
おかるは、自分には心に決めた相手がいるので
仮の夫婦としてならと心を決めます。
小名木川近くの暁星五郎の隠れ家では、
手傷を負った縫之助を匿っています。
その治療のためには20両の薬と
それを服用するために辰の年月がそろったものの血汐が必要であり、
定九郎は途方に暮れていました。
加古川がそうではなかったかと思案する中、
当の加古川が家を訪れます。
縫之助から勘当が許されたことから
晴れて夫婦の盃を交わそうという定九郎。
加古川の生まれが辰の年月であることも突き止めます。
不意に、刀を抜いて襲いかかるも
加古川は姿を消してしまいます。
加古川は、再び現れると
自分が与五郎に殺害された経緯を語り、
自分の身体を役立てて欲しいと言います。
そこへ、加古川の死骸が流れ着き、
定九郎は加古川の胸から汲み取った血汐を
縫之助に薬と共に服用させます。
いつの間にか加古川は姿を消し、
縫之助は本復するのでした。
両国の柳橋では
花火の打ち上げとともに
星五郎の捕物が行われると噂しています。
その通りに、星五郎を囲む捕手たち、
そこへ、加古川が現れ、
星五郎を守って逃すのでした。
大詰め
第1場:本所石原町石屋の場
第2場:牛の御前祭礼の場
第3場:専蔵寺大屋根の場
権兵衛とおかるが偽の夫婦として暮らす石屋。
飯炊きに雇われた直助(与五郎)は
塩冶家にいた時からおかるに想いを寄せており、
偽の夫婦なら、自分におかるを譲って欲しいと
権兵衛に申し出ます。
それに対し、50両の金を出したら
譲ってもいいと答える権兵衛。
直助は50両の入った財布を差し出すと
それは与一兵衛のものでした。
権兵衛は与一兵衛、そして加古川殺害を
直助に問いただしますが、
逆に自分は高野家の落胤として
高野家の再興を目指す身だから
その家臣として自分に協力すべきと
迫ります。
答えに窮する中
家に忍び込んだ星五郎をおかるが見咎めます、
しかし、お互いが持つ髪飾りから
想いを寄せ合う仲であった事がわかります。
そこへ現れた権兵衛は
星五郎から菅家の正筆を取り返すと
2階にいた直助に渡します。
それを追おうとする星五郎と権兵衛は争いますが、
その最中、
竹の切先を自分に突き立てる権兵衛、
そして自分が星五郎の兄であることを告げ
直助が高野家の落胤である証拠のお守りを
渡します。
花筐の短刀を取り戻した縫之助は
塩冶家の再興の許しを得ます。
そこに直助を追ってきた星五郎と
星五郎を捉えようとする捕手も現れます。
どさくさに紛れて
忍びの一巻を手に入れた直助は
忍術を使って専蔵寺の屋根の上へと逃れます。
星五郎は
祭礼に用意された大凧を使って
直助を追います。
大屋根の上で戦う2人におかるも加わり、
直助を打ち取ります。
菊宴月白浪(歌舞伎)の観劇感想7月歌舞伎座
令和5年7月に歌舞伎座で上演された
「菊宴月白浪〜忠臣蔵後日談」を観劇しました。
この演目が発表された時は、
主演を4代目市川猿之助さんが務めることになっていました。
それが、不幸な事件により
猿之助さんの出演が叶わず
市川中車さんが斧定九郎(暁星五郎)を演じることになりました。
おはようございます!!
市川左次郎です!!今月は一番の大先輩である
市川寿猿さんと裏でご一緒させていただいております!!前回の菊宴月白浪の話など、私が生まれるより前の出来事をたくさん教えてくださっております!
これからもどうぞよろしくお願い致します !!#菊宴月白浪 #市川寿猿 pic.twitter.com/BqzxNA4mN2
— 市川左次郎🐣新人歌舞伎役者 (@Sajiro_Ichikawa) July 8, 2023
菊宴月白浪7月大歌舞伎の主な配役
斧貞九郎/暁星五郎:市川中車
塩冶縫之助:中村種之助
金笄のおかる:中村壱太郎
石屋仏権兵衛:市川猿弥
芸者浮橋:市川男寅
加古川:市川笑也
高野師泰:市川青虎
斧九郎兵衛:浅野和之
与五郎/直助:中村歌之助
山名次郎左衛門:澤村由次郎
石堂数馬之助:市川門之助
菊宴月白浪7月大歌舞伎の感想
配役を見ても分かる通り、
各家の若手を集めて活躍の場を作った事がわかる舞台です。
さらに、3代目市川猿之助が定めた
澤瀉屋のお家芸でもあり、
4代目猿之助さんが
この舞台において、どんな思いで企画をしたのかを
ひしひしと感じる事ができたお芝居でした。
ただただ、
4代目がこの場にいない事が悔しくて悲しい、、、
その思いを観劇中も消し去ることはできませんでした。
市川中車さんは、
俳優としてのキャリアも実力も優れていらっしゃいますが、
中車という歌舞伎役者としては
キャリアは浅い方です。
しかし、先月の傾城反魂香でも
今月の舞台でも
舞台の中心を担う歌舞伎役者としての
存在感に目を見張るものがありました。
化けたな。。。て感じです。
中車さんご自身は、
父の芝居を見て、父の言う通りに演じている
とお話を残されています。
澤瀉屋の芸を引き継ぐために
相当の努力をしてこの舞台に立っているのが
伝わる気迫ある演技でもありました。
この舞台では悪役となる直助(与五郎)を
中村歌之助さん、これは大々抜擢と言えるでしょう。
昨年の忠臣蔵外伝の上演で、
歌之助さんは「菊宴月白浪」を演じたいと
話していらしたのを覚えています。
このお芝居の上演は
それがきっかけだったのかなと思える
顔合わせなので、
余計に4代目猿之助さんの不在が辛いんですよね。
歌之助さんも、化けたなと思える演技でした。
本音を言うと、
まだ、型に沿っている感もあるのですが、
与五郎と直助という
真逆の性質を持った男を演じ分け、
憎々しいまでの人物として描けていたことが
お芝居の面白さに通じたと思いました。
そして驚くことに
加古川役の市川笑也さんは
平成3年の上演時も同じ加古川役。
この30年以上の年月を感じさせない
美しさと気品はお化け並みです。
権兵衛の市川猿弥さんも
本心を二重に隠したお役を
安定感たっぷりに演じていらっしゃいました。
この権兵衛、
星五郎、直助、おかるを繋ぎ
高野家の家臣であるが
生まれは塩冶家の家臣という
すごいキーパーソンなんですよね、
それを自然に見せるのが猿弥さんの魅力でありお力だなあと思いました。
https://twitter.com/Rinta0803/status/1675133100106592258
おかる役の壱太郎さんも妖艶で一本気な女伊達のイメージをうまく出していましたし、
縫之助を慕う浮橋の男寅さんは可愛らしい。
斧九郎兵衛役の浅野和之さんは、
歌舞伎役者に混じっても
全く見劣りしない存在感に唸りました。
個人的に
鎌倉殿の13人の伊藤祐嗣が被って見えました。
大詰めの
大凧を使ったダブル宙乗りは見応えたっぷり・・・
そこにも中車さんの覚悟が感じられたし、
見れば見るほど
澤瀉屋オマージュを痛感して泣けました。
私が観に行った日は
大勢の高校生が観にいらしていました。
細かなストーリーは難しいと思うけど
エンターテイメントとして
楽しめたのではないでしょうか?
歌舞伎の仕掛けもたっぷり施され、
場面転換もダイナミック、
役者さん達が大奮闘の大力作だと思います。
悲しいけど、見られずにはいられないいい舞台でした。
読んでくださり、ありがとう存じまする。
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