歌舞伎「天守物語」、坂東玉三郎さんの
ライフワークとも言える演目の一つです。
劇場での上演に加え、シネマ歌舞伎にもなっています。
2023年には、坂東玉三郎さんから教えを受けた
中村七之助さん主演のお芝居も上演されています。
その「天守物語」についてあらすじや、
2023年12月の歌舞伎座の感想などをまとめました。
天守物語とは?
天守物語とは、文豪泉鏡花鱶七(いずみきょうか)が大正6年(1917年)に発表した戯曲です。
耽美主義の戯曲として
右に並ぶもののない名作として知られています。
戯曲というのは、舞台の脚本のこと。
泉鏡花は、この天守物語を芝居化してほしかったようで、
「上演してくれる人がいたら謝礼はいらぬ。こちらからお土産を送るのだが」
と語ったこともあります。
しかし、鏡花の存命中は
この願いは残念ながら叶わなかったんです。
鏡花が亡くなってから12年後の
昭和26年(1951年)に
劇団新派によって新橋演舞場で初演されました。
舞台音楽にドビュッシーの「雫」が使われ、
今までにない斬新な舞台として話題になったんですって。
この時代、戦後の復興が進んでいた頃ですね。
当時の人はこのお芝居からどのような印象を受けたのか、
ぜひきいてみたいくらいです。
歌舞伎化されたのは、
昭和30年(1955年)です。
主人公の富姫を中村歌右衛門さんが演じて話題になりました。
その後、中村扇雀時代の坂田藤十郎さんも演じています。
当代きっての女方名優たちが演じたということで、
これを演じられるのは
格も実力も人気も備わった役者だけ、
というクオリティの高いお芝居だったことがうかがえますね。
そして、1977年からは
坂東玉三郎さんがそのあとを引き継ぎます。
現在のようなスタイルは
坂東玉三郎さんが作り上げたものということです。
とても美しい、耽美・優美の言葉しか浮かばない
本当に現実離れした異界のファンタジーというイメージがします。
泉鏡花が生きていたら、
涙を流して喜ぶのではないかと思うくらいに
原作のイメージを損なわない名作だと思います!
歌舞伎、天守物語のあらすじを簡単に!
それでは天守物語のあらすじを簡単に説明しますね。
時は1600年の初め頃、
姫路城の天守閣に不思議な女性が住んでいます。
その名は富姫、
侍女の薄(すすき)や禿など
数人の女性たちと一緒に暮らしています。
ある日、富姫の元に、
猪苗代の城に住む、妹分の亀姫が
朱の盤坊、舌長婆を連れて遊びにきます。
亀姫のお土産は
猪苗代の城主の生首、
富姫たちはその心遣いに感謝すると共に、
自分が準備した姫路城の家宝である兜では
見劣りがすると言います。
そうして、手毬遊びに興じた後、
亀姫が興味を示した姫路城主播磨守の鷹を捉え、
手渡します。
その日の夜、天守閣に一人の若者が登ってきます。
その名は、姫川図書之助。
播磨守の鷹匠で、天守閣に消えた鷹の責任を取り、
切腹を申し付けられたのだが
その消息を追って登ってきたのです。
鷹はもうここにはいないと姫はいい、
図書之助を返します。
しかし、途中で妖怪たちに灯りを消されてしまい、
またもや天守に戻ることになります。
なぜ戻ったのか?と詰問する富姫に対し、
暗がりで足を取られて怪我をするのは
武士としての恥となる。
それよりは富姫に命を取られた方が良いと答えます。
それを聞き、図書之助に富姫は急速に惹かれるのです。
返したくはないが、俗世に未練のある図書之助を察し、
代わりに兜を手渡して帰します。
ところが、図書之助は兜を盗んだ犯人として
命を取られそうになってしまいます。
命からがら、天守へ逃げ込んだ図書之助を
富姫は匿ます。
殿様の命によって
追手がやってきますが、
天守閣の守り神である獅子が追手を蹴散らします。
天守の伝説を知る小田原修理らによって
獅子は両目を潰され、
富姫も図書之助も天守のものたちも
皆失明してしまいます。
絶体絶命、、
その時富姫が、追手たちに亀姫からもらった生首を投げます。
その生首は播磨守に瓜二つ、
殿の生首と間違えた追手たちは
一斉に引き上げていきます。
後に残り、見えない目を憂う富姫たちの前に、
近江之氶桃六が現れ、獅子の目を開かせます。
それによって再び光を取り戻した富姫たち、
幸せそうに寄り添うのでした。
途中途中、省いていますが
ざっとこんな感じのストーリーです。
天守物語の富姫の正体は?刑部大神とは?
天守物語の富姫の正体は妖のもの。
姿は、27〜8の美しい女性で品があります。
特に術を使うわけではありませんが、
福井に住む夜叉ヶ池まで空を飛んで行ったり、
鷹を捉えるために鶴に化けたり、
生首を美味しそう、というあたり
やっぱり怪しいものなのだと思います。
天守物語の中で語られる
富姫の伝説は、次のようなものです。
2代前の姫路城の城主が鷹狩りの帰りに見つけた美しい美女に惹かれ、
連れ帰ろうとしたところ、
その女性は人妻であるからと拒み、
あげくは舌を噛んで自害。
それを見ていた獅子頭がその女の血を舐めて涙を流しました。
その後3年間、雨が降り続いて起きた大洪水は
その女の恨みではないかということになり、
天守に獅子頭と共に祀られたのが
富姫である、というものです。
実際の伝説では、
刑部大神という名が上がります。
こちらは、姫路城が位置する姫山の地主神ということです。
藩主の池田輝政が、
この神の祟りで重い病を患い、
比叡山から僧侶を招いて祈祷をしてもらったんだそうです。
その途中に現れた美しい女性が、
その祈祷をやめるように僧侶に訴え、
鬼の姿になって僧侶を蹴り殺したとのこと。
その時に、
「我はこの国に隠れなき権現なり」と
名乗ったことから、
刑部大神を祀るようになったとのことです。
泉鏡花は、
この伝説から構想を得て、
「天守物語」を書き上げたと言われていて
そこから富姫が誕生したようなんです。
歌舞伎天守物語では、
富姫は神様というよりも、
獅子頭に守られている妖のものという
描かれ方をされています。
まあ、それでも美しく、気高い存在なのです。
正体は気になりますが、
お芝居の世界はそれでいいと満足して観てきました。
天守物語2023年12月歌舞伎座の感想
天守物語、私は。
初めは坂東玉三郎さんの富姫で
観ています。
といっても、シネマ歌舞伎でした。
図書之助は、当時の市川海老蔵さんで
美しいカップルだった記憶が残っています。
2023年12月の富姫は中村七之助さん、
図書之助は、中村虎之介さん(坂田藤十郎さんのお孫さん)でした。
あまりにも美しいお芝居で、
2回も観てしまいました。
千穐楽も観に行く予定です。
その感想はまた追記しますので
まとめるまでもう少しお待ちくださいね。
ここまでお読みくださり、
ありがとう存じまする。
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