4月9日に初演を迎えた第8回「古典への誘い」、
平成最後の海老蔵と話題の舞台です。
今日、10日に冷たい雨の降る中、東京国際フォーラムへ観に行ってきたので、感想を書きました。
平成最後の海老蔵「古典への誘い」とは?
キャッチフレーズが、平成最後の海老蔵、
それは気になる、と思っていたところ、
2020年に市川團十郎白猿を襲名することも決まり、
場合によっては本当に最後の海老蔵になる方もいらっしゃるのではないか・・・
という舞台にもなる今回の公演です。
「古典への誘い」とは、
日頃日本の伝統芸能に触れる機会がない方にも
気軽に触れて知って感じてもらおうと
十一代目市川海老蔵が企画し、2012年から毎年上演している人気公演です。
海老蔵を始め人気の役者が全国各地の会場で見られるということ、
歌舞伎以外の伝統芸能を知るきっかけになることが、
その人気の理由ではないかと考えます。
第8回目となる今回は、時代の変わり目ということと、
二代目を襲名したばかりの市川右團次のお披露目、
そして團十郎襲名が決まった海老蔵と、
注目度はさらにアップしています。
チケットには公演パンフレットがついており、
今までの公演で巡業した土地や演目の紹介もされています。
この公演に対する海老蔵の思いが伺えるお土産でした。
*この公演についてはこちらの記事にも書いているのでご覧ください。
それでは、次にそれぞれの演目について内容と感想を紹介していきます!
「古典への誘い」笠の段・矢の根・口上・嫐
「能楽一調 笠之段」で心を整える
能楽のお囃子といえば、
小鼓、太鼓、笛、謡からなるものが有名です。
一調は、地謡と太鼓がそれぞれ1人ずつで、
物語を聞かせるスタイルのものです。
この物語は、「芦刈」という作品の一部で、
貧しさのために別れた夫婦が再会を果たすというもので、
葦を刈り、それを打って暮らす男の暮らしや、
その風景、傘づくしの舞の様子が、
太鼓と謡で表現されているそうです。
私自身は、謡の言葉はなかなか聞き取れなかったのですが、
太鼓のカーンという乾いた高い音色が、
会場に残す余韻を味わいながら聞いていました。
「矢の根」市川右團次が見せる豪快な五郎
続く芝居は、市川右團次演じる「矢の根」。
これは、成田屋の歌舞伎十八番の一つです。
主人公は曾我兄弟の弟、曾我五郎時致。
お正月、自宅で仇討ちに備えて、
時致が矢の根を研いでいる場面から始まります。
そこへ、年始の挨拶に来た大薩摩文大夫が、
宝船の絵を置いていきます。
縁起を担いで、砥石のまくらの下に絵を引いて寝ていると、
兄の十郎祐成が夢に出て来て、
「敵の工藤祐経に幽閉されている・・・」と助けを求めます。
目覚めた、五郎は助けに向かう用意をし、
通りかかった大根売りの馬を奪って、
大根を鞭に出発する。。。という内容です。
この芝居の見所は、
まず右團次演じる五郎時致の
豪快な上に愛嬌が感じられるキャラクターです。
矢の根を研ぎながらグダグダいうところや、
宝船の絵をすかしたりかざしたりしながら見る姿、
さあ行くぞとばかりに大根を持って走ろうとする姿、
出で立ちや表情が勇壮なだけに、
その台詞回しや動作には可愛げが引き立ちます。
場面場面での見得のポーズも、
大向こうさんの「高嶋屋」の掛け声とぴったり決まり、見栄えがします。
また、三味線や語りが情景を彩り、
うまく場を繋いで流れていくところも見事です。
演技を楽しむというよりは、
芸術的な描写が魅力的な一幕だと感じました。
海老蔵・右團次、ダブル口上
休憩を挟んで、口上です。
これは、
三代目市川右團次のお披露目と言った意味があったようです。
右團次という名跡は81年間途絶えていた
市川宗家の中でも上方筋の大きな家の名でした。
三代目右團次は、元々は舞踊家である飛鳥峯王の長男、
二代目市川猿翁(当時は三代目猿之助)の部屋子として
市川右近を名乗って歌舞伎界で活躍していた役者さんです。
その右近に対して、
この大きな名跡を継ぐという話を、海老蔵が持ちかけたと言います。
*詳しくはこちらの記事にあるので併せてお読みください。
そういう意味からも、
市川宗家の大きな役者として共々口上を務めることになったようです。
右團次からは、
市川宗家の許しを経て、81年ぶりにこの名跡を継いだことへの挨拶と感謝、
市川一門として今後もがんばっていきますよ、という決意表明がありました。
海老蔵からは、
右團次の紹介と、自身も来年は團十郎白猿を襲名することの挨拶。
さらには、日本初上演となる「嫐」へ、
「大様な気持ちで御見物を・・」と笑わせました。
そして、日本の伝統芸能に親しんでほしいという
本公演のねらいにも最後は触れ、
短いながらも
心のこもった生の声を聞くことができました。
日本初上演「嫐」
いよいよ、期待の演目「嫐」です。
舞台写真があまりかっこよくなかったので、
なんでかな????
って思っていたのですが、
それもそのはず、これはコメディでした。
海老蔵版バカ殿様といったキャラクターの主人公、
甲賀三郎兼家が、別宅にて妾であるみな月といちゃついているところへ、
本宅から本妻の久万がやって来ます。
みな月に大谷廣松、赤いお姫樣装束が似合う可愛らしい女子です。
対して、妻の久万はちょっと怖くていかつい感じ、
右團次がぴったりハマっています。
嫐という表題通り、
妻と妾という2人の女性の間で
情けないお殿様が右往左往するというお話です。
かっこいい2枚目の海老蔵を期待していった私には、
ガクッと椅子から落ちそうになる情けなさっぷりです。
意外でしたが、
海老蔵は、コメディーもうまく見せられる役者でしたね。
ほんと、かっこ悪かったです。
でも、面白くてケラケラ笑って最後まで観られました。
かっこは悪いなりに、付けうちに合わせた見得はピシッと決まるところは
気持ちがいいものがありました。
伝統芸能が格式高いとか、ちょっと難しいとか
そういう先入観を打ち消してくれる、わかりやすい楽しい演目でした。
この芝居を選んだ海老蔵ってすごいなあと、
改めて感じました。
海老蔵・右團次・廣松・広忠(主な出演者)のプロフィール
最後に、主な出演者の簡単なプロフィールも紹介します。
十一代目市川海老蔵のプロフィール
市川海老蔵 本名:堀越 寶世(ほりこし たかとし)
生年月日 1977年12月6日
家系 祖父:十一代目市川團十郎、父:十二代目市川團十郎
屋号 成田屋
定紋 三升
当たり役 「鳴神」 鳴神上人役
「助六由縁江戸桜」 花川戸助六、実は曽我五郎時致
三代目市川右團次のプロフィール
市川右團次 本名:武田 右近(たけだ うこん)
生年月日 1963年11月26日
家系 父:飛鳥峯王(日本舞踊家元)、妻:武田明子、子:二代目市川右近(武田タケル)、妹:飛鳥左近
屋号 高嶋屋
定紋 三升に右
当たり役 「義経千本桜」狐忠信役
「雙生隅田川(ふたごすみだがわ)」猿島惣太後に七郎天狗役
雙生隅田川(ふたごすみだがわ)」猿島惣太後に七郎天狗役
二代目大谷廣松のプロフィール
大谷廣松 本名:青木 孝憲(あおき たかのり)
生年月日 1993年7月21日
家系 祖父:四代目中村雀右衛門、父:八代目大谷友右衛門、叔父:五代目中村雀右衛門、兄:三代目大谷廣太郎
初お目見え 1997年 青木孝憲の名で「江戸育お祭佐七」の踊りの伴内役(歌舞伎座)
襲名 2003年二代目大谷廣松襲名「助六由縁江戸桜」の揚巻付禿しげり役(歌舞伎座)
身長:170cm
趣味:車、サバイバルゲーム、舞台鑑賞
平成30年の印象深い役 「鳴神不動北山桜」小野春風
*大谷廣松に関しては、こちらの記事も併せてお読みくださいね。
亀井広忠のプロフィール
能楽囃子・葛野流太鼓方十五世家元
1974年 東京生まれ
家系 父:亀井忠雄(葛野流太鼓方十四世家元・人間国宝)、母:田中佐太郎(歌舞伎囃子方田中流九代目家元)
初舞台 1981年「羽衣」
学歴 東京芸術大学卒業
趣味 宝塚歌劇鑑賞
「古典への誘い」は、日本の伝統芸能の魅力を、
わかりやすく、エッセンスを絞って体験できる、
とても素敵な舞台です。
今後4月25日の千秋楽まで、各地で講演をしていくそうなので、
機会があったらご覧ください。
今日も読んでくださり、ありがとう存じまする。
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