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歌舞伎座三月「仮名手本忠臣蔵」夜の部Aプログラムの感想〜芸の継承を目撃し感無量〜

観劇レポート
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2025年歌舞伎座の三月公演は、通し狂言「仮名手本忠臣蔵」です。

これは、とても楽しみな演目で、歌舞伎沼の住人たちは、

松竹さんから何か発表が出るたびに一喜一憂していました。

中でも、AとBのダブルキャストである、ということを知った時は、

松竹さんや歌舞伎役者さんたちの本気度を確信しました。

これは本気で歌舞伎の芸の継承を望んでいるのだと。

現在、大きな役どころを演じられる役者さんは数少なくなりました。

その中から、片岡仁左衛門さん、尾上菊五郎さんが身をもって指導されるのではないかと

思っているところです。

前置きが長くなりました。

初日に夜の部(Aプログラム)を観劇してきたので、その感想を書いていきます。

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三月歌舞伎公演夜の部Bプログラムの感想

どうまとめようかと悩んだのですが、

せっかくの通し狂言なので、

段ごとに書いていこうと思います。



五段目の感想:悲劇の始まりは暗闇での勘違い

この五段目は、おかるの父が山賊に金を盗まれて殺され、

その山賊を猪と間違えて勘平が撃ち殺し、

その懐の財布を持って逃げていくストーリーです。

悲劇のきっかけを描いてますが、

江戸時代はこの段は話の継ぎ目程度の扱いだったのが、

中村仲蔵という一人の役者の工夫によって

人気のある段になってしまいました。

それが、斧定九郎の演じ方です。

セリフはたった一言「50両」

あとは無言で、人を殺めて財布を抜き取り断ち去り際に打たれて倒れる、

それだけの芝居です。

でも、それを異形な風体で見せたことから人気となったのです。

その定九郎を尾上右近さん、ここが一番注目して観てました。

白塗りの右近さんは素敵で色気もありました。

欲を言うと、もっと悪どさが欲しいなあ。

だって、冷酷な山賊です。

その割には所作の一つ一つが綺麗すぎて

見る分にはいいけれども

ショータイムみたいなん感じで終わっちゃうのがもったいない。

悪いやつ、殺されてせいせいした、そのくらいの味を残して欲しいなあ。

その他、勘平と千崎のやりとりは

元の同志らしく境遇は違えども

礼儀の中に親しさを感じられるいい場面でした。



六段目の感想:勘平の苦しさが胸を打つ、心情描写と切腹場面

ここは、出だしは明るく帰ってくる勘平、

終わりは自ら腹を切り生き絶える勘平。

そのギャップが、前の段の出来事による勘違いによるもの、

と言うわけなので観ている方も苦しくなる場面が多々あります。

勘平を追い詰める3つのポイントに

おかるとおかや、お才の三人の女性が絡んできます。

おかるは、勘平を武士に戻すために、身を売ります。

勘平のため、と自分に言い聞かせて家を出るのですが、断ち切れない思いがダダ漏れで、

あえて籠の幕を下ろす健気さがたまりません。

ここで勘平は、自分のために妻に身を売らせた男になってしまいました。

お才は、与市兵衛にこの柄の財布を持たせた、と勘平に縞柄の手拭いを見せます。

それを見て勘平は、自分が撃ったのは舅だったのか、あの金は妻の身売りの金なのか、と衝撃を受けます。

おかるの身売りを止めようとしていた勘平は、

それを知った途端、おかるの顔すら見られなくなってしまうのです。

そして、「親父様を殺したな、親父様を返せ」と罵しるおかや。

そうではないのだが、結果としてそうなってしまったことを言い出せず、自分の罪を悔いる勘平なのです。

でも、ここまでは勘平にとっては主君のため、と言う忠義がありました。

だけど、その思いを突き返されて、勘平は絶望するのです。

いきなり自分の腹に刀を突き立てる勘平、

それは妻、義父母への罪の意識もあるでしょうが、

それ以上に助けられず死なせてしまったと思っている主君からも

拒絶されたことへの絶望が大きかったと思います。

だから、武士として主君への罪滅ぼしに死のうとしたのではないかと私は思いました。

勘平が、武士として死ぬために、最後に全てを告白しますが、

そこで、舅殺しは勘違いであり、実際は敵討をしたのだと言うことが発覚します。

このため、顔は立つのですけど、時遅し・・・。

菊之助さんの美しいお顔や所作、言葉の言い回しから

その悲劇をひしひしと感じた一場でした。

あまり表情を変えずに、身体の動きや顔の向き、苦しそうな言葉遣い、

そういう姿が余計に哀れさを感じさせられる、素晴らしい勘平でした。

また、不破数右衛門役の中村歌六さんの、どっしりとした存在感も、

庶民とは違う武士の厳かさを感じられ、

最後の勘平の救いにもなったように思われます。

もう一つ欲を言うと、

連判状への書き付けや血判は、あの場でリアルにやって欲しかったな。

私は、あそこでちょっと気が抜けました。

個人的な感想ですけどね。



七段目の感想:愛之助さんの由良助が大きかった、平右衛門とおかるは情熱的だった

一力茶屋の場、昨年の休演より3ヶ月ぶりに舞台に復帰した

片岡愛之助さんが大星由良之助を演じました。

登場シーンでは、一際大きな拍手に、

観客の温かさや喜びも感じられました。

この段の由良助は、とても繊細な演じ分けが要求される

なかなかに難しいお役です。

愛之助さんは、上方風の柔らかな由良助と

芯の通った由良助を熱演され、

私も新境地を見た感じになりました。

どちらかというと、

本性を見せた由良助の迫力の方が、私は好きだったな。

キリリと口跡よく久太夫を断罪し、平右衛門へ本心を語る場面、

最高にかっこいいと思いました。

おかるの時蔵さんは、

可愛らしくて、健気で、守ってあげたくなっちゃう感じ。

それでも、勘平の最後を聞き、自ら命を断つ覚悟は女の強さを感じました。

平右衛門の巳之助さんは、とても情熱的でした。

そして、多くの愛を感じました。

主君への忠義もあるけど、家族、おかるに対する愛情も本物、

勘平に対しては憧れもちょっとはあるものの本気で悲しんでいるのも伝わりました。

見終わった後が清々しい余韻、いい七段目でした。



十一段目の感想:菊五郎さん、全てを持っていきましたか?

いよいよ討ち入りです。

幕開きから、私も気合が入ります。

アサギ幕を下ろすと、装束に身を固めた、

大星由良之助いか、塩冶浪士たち。

高家へと傾れ込んでいきます。

池の周りでの死闘、

確かこれは、高家の小林平八郎と

塩冶家の竹森喜多八との一騎打ちが見どころ、

のはずだけど時間が短めでサクッと終わっちゃった

炭小屋で師直を見つけて、

その首を討ち取る場面も

なんかあっけなくて待ちに待った、という高揚感が

乏しかったなーというのが正直な思い。

おそらく時間の問題だと思うから

やはり1日ではなくて、2ヶ月必要だったのではないかと思えて仕方ない。

或いは、全体的な割振りの問題か?

役者さんや、演出の工夫で変わるかもしれないなとも思うけど。

ただし、引き上げはよかった!

橋を上ってくる浪士の姿は圧巻で

この場面を見たかったーと思える大きさ。

が、その上を行ったのが尾上菊五郎さんの登場でした。

本懐を遂げた浪士たちを讃え、

邪魔されることなく菩提寺へ辿り着けるよう、

さりげなく助言をする旗本、なんだけどね。

出てきたところから、すべてをかっさらっていくような圧倒的な存在感!

すごいわーと惚れ惚れしました。

見送られる皆さんも、胸を張り花道を歩んで行きます。

最後に一際胸を張る、愛之助さんの由良之助。

そこには、満足感や達成感とは違った、

リーダーとしての責任を背負った男の姿がありました。

まだ、にざ様の由良助を見ていないのでなんとも言えませんが

あの表情が物語るものはなんなのだろうとずっと考えております。



三月歌舞伎公演夜の部Aプロ感想まとめ

初日は、なんと、東京は雪がちらつきました。

なんて奇遇な、

時空を超えて赤穂義士らが喜んでいるのかもしれません。

たった半日の観劇ですら、

とても重いものを一緒に味わった気分です。

最後の十一段目は、江戸時代にはなかったとも言います。

本懐を遂げるところは描かずとも、

討ち入りをする浪士の姿だけで十分感動が伝わったのでしょうね。

Aプログラムは、初役の片岡愛之助さん由良助の元、

これからの歌舞伎界を背負って立つ若手の皆様の素晴らしい演技に感動しました。

Bプログラムと比べるわけじゃないけど、

役者さんが違うとどうなるのかはぜひ観てみたいと思っています。

三月歌舞伎公演のまとめはこちらからお読みください

kabukizakouen3gatu2025-7761

お読みくださり、ありがとう存じまする。



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