「三社祭(さんじゃまつり)」は歌舞伎でも人気の演目です。
2人の漁師が清元が奏でる三味線や唄に合わせて、軽やかに舞う舞踊劇。
なかなかコミカルなシーンもあるので、見ていて楽しい演目です。
「三社祭」のあらすじや歌詞、途中で登場する善玉と悪玉について紹介します。
三社祭は歌舞伎の人気演目
「三社祭」は「さんじゃまつり」と読みます。
そうです、浅草で毎年行われているあのお祭りです。
この演目は、清元の唄に乗せて舞う舞踊劇です。
祭りといっても、「お祭り」のように、
祭囃子が出てきたり、祭りの景色が出てきたりしません。
この演目に登場するのは、2人の漁師です。
浅草の三社祭になぜ漁師?
と思いますよね。
実はこの漁師というのは、三社祭で使われる、
山車に飾られているものが題材として取り上げられているのだそうです。
昔話になりますが、浅草寺のそもそもの由来に関係します。
2人の漁師が宮戸川(隅田川の一部)で網打ち漁をしたいた時、
引き上げた網の中に観音様の像がいらしたというのです。
それを本尊として祀ったのが、
浅草寺の始まりだというものです。
これが、題材になっている2人の漁師なのですね。
元々のストーリーは、山車人形の漁師が踊り出すところから
始まっていたそうですが、
1968年に故5代目中村富十郎さんと2代目市川猿翁さんが、
2人の漁師の踊りと、善玉・悪玉が乗り移る件をまとめて
復活されたということです。
以来、人気の演目として再演を繰り返しているということ。
富十郎さんといえば、息子さんの中村鷹之資さんが、
この踊りを踊っていらっしゃいました。
なるほど、そんな縁もあったのですね。
近年でこの舞踊の名舞台といえば、
18代目中村勘三郎さんと10代目坂東三津五郎さんの共演だということ、
私はこの二人が大好きだったので、いま見られないことがとても悲しいです。
でも、お子さんの中村勘九郎さん、中村七之助さん、坂東巳之助さんらが、
活躍されているので、
今後は、息子たちのコンビで見たいものだなあと思っています。
三社祭(歌舞伎)のあらすじは
浅草は宮戸川、浅葱色の幕が落ちると
兄弟漁師、浜成と竹成が舟に乗って姿を現します。
浜成は櫂を持ち、竹成は網を手にしています。
はじめの踊りは、
今日の漁も観音様のお陰と、
収穫の様子や、魚河岸や町中の人の様子を描きます。
そして流行歌に合わせ、腰蓑を外した二人は、
男女の恋の様子を踊っていきます。
そのうちに
上空に黒雲がかかり、中から前とあくの2つの玉が現れます。
降りてきた2つの玉が、2人に取り憑いてしまいます。
善と悪、それぞれの面をつけた二人の踊り。
悪づくしという、悪という文字がついた人の名前にちなんだ
踊りになります。
続いて、浄瑠璃の語り手と三味線弾きの真似をして、
クドキと言われる恋模様を描きます。
悪玉は男役、首に手ぬぐいを巻いてます。
善玉は女役、頭に乗せています。
2人は恋の様子を表現しながら、手拭いを手に
この世が思い通りにならない難しさを歌います。
続いて、音楽の調子が変わり、
踊りの様子が激しくなります。
2人が諸肌を脱ぐと、善玉が水色で悪玉が黒色の衣装となります。
スピード感、と躍動感が、
複雑な動きを加速していくような踊りです。
やがて2人に取り憑いていた善と悪が消えていき、
元の漁師姿に戻ります。
そして、2人が舟に戻り幕となります。
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ストーリーらしいストーリーではないのですが、
状況がわかると、
踊りの様子もなるほどって思えます。
私は、冒頭の2人がブルブルと身体を揺らす振りが好きです。
山車の人形を表しているようですが、
なんか可愛い動きなんです。
それと後半の、いわゆる悪玉踊りと言われるところは、
動きも速く複雑になり、
見応えがあると感じています。
息のあった2人の踊りが試される、場面だなあと思います。
三社祭(歌舞伎)の善玉と悪玉ってなんのこと?
三社祭には、善玉と悪玉が登場します。
これは一体なんなのでしょう?
これは江戸時代に流行した「心学」という倫理学に
その考えがあるそうです。
つまり、人間が善人や悪人になるのは、善玉か悪玉のどちらかが、
魂となってその人の中に入り込む、というものです。
善んもなれるし悪にもなれる、
そういう考えをお芝居の中に取り入れていることから、
江戸の人の風流さを感じます。
悪玉踊りというのも、当時は流行したとのことで、
教本も出て一般の人でも踊れたようです。
江戸時代の町人文化が垣間見えるのも
この舞踊の特徴だなあって思います。
三社祭(歌舞伎)、清元の歌詞は?
三社祭は、清元の三味線、唄が舞踊を引き立てています。
でも、普通に聞いていると、なかなか歌詞がわかりづらいですよね。
そこで、どんなことを唄っているのか調べました。
この「三社祭」という題名は、歌舞伎の演目としての題名、
俗省に当たるのだそうです。
清元の正式な題名は、
「弥生花浅草祭(やよいのはなあさくさまつり)」といいます。
現在、三社祭は5月に行われていますが、
この唄が生まれた約200年前は、弥生の時期に行われていたことに
由来しているそうです。
今の5月になったのは、明治以降だとか。
近代化で様々な変化が起きても、
祭りと唄と歌舞伎は残ったのですね。
その歌詞、一部ですが紹介します。
作者は、二代目瀬川如皐という方、
作曲:清元斎兵衛という方です。
作られたのは、1832年、天保3年だそうです。
歌舞伎を見るときに頭に入れておくといいですね。
(本調子)洩れぬ誓いや 網の目に 今日の獲物も信心の おかげお礼に朝参り
浅草寺の観世音 網の光は夕鯵や 昼網夜網に凪もよく乗り込む
河岸の相場に しけは 生貝生鯛生鰯 なまぐさばんだ ばさらんだ
わびた世界じゃないかいな かかる折から虚空より 風生臭く身にしむる
呆れてしばし両人は 大空きっと見あぐれば これは昔の物語
それが厭さに 気の毒さに おいらが宗旨はありがたい 弘法大師の いろはにほへと
変わる心はからくり的 北山時雨じゃないかいな 牛に引かれて善悪は
浮かれ拍子の一踊り
(二上り)通う玉鉾 玉松風の もとはざざんざで 唄えや唄えや 浮かれ烏のうば玉や
うややれやれやれ そうだぞそうだぞ 声々に しどもなや
(本調子)唄うも舞うも 法の奇特に善玉は 消えて跡なく 失せにけり
歌舞伎演目「三社祭」についてお伝えしました。
歌舞伎では季節を問わず好まれる演目です。
特に、若い役者さんが踊ることが多いので、
歌舞伎ビギナーには入りやすい演目だと思います。
読んでくださり、ありがとう存じまする。
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