「心中月夜の星野屋」は、古典落語を題材にした、
新しい歌舞伎演目です。
初演が、平成30年、その時の主な配役が中村七之助と市川中車です。
令和2年12月大歌舞伎でも、その変わらぬ配役で上演され、
息の合ったコンビで拍手喝采でした。
その「心中月夜の星野屋」について、あらすじ、見どころ、感激した感想もお伝えしますね。
「心中月夜の星野屋(しんじゅうつきよのほしのや)」の配役・簡単なあらすじ
「心中月夜の星野屋」の配役
おたか
元芸者で三味線の師匠。照蔵とは深い仲だが、心中を約束しながら自分は助かる策を練る。
お熊
おたかの母親。心中するつもりのないおたかに、照蔵だけ身投げをさせる案を授ける。
和泉屋藤助
おたかと照蔵を引き合わせた和泉屋の主人
星野屋照蔵
青物問屋の主人、おたかとは深い仲にある。相場に手を出して損をし、おたかに別れ話を持ちかける。
「心中月夜の星野屋」の簡単なあらすじ
第一場 稽古屋座敷の場
元芸者のおたかは、三味線の指南をしながら生計を立てています。
その稽古場に、青物問屋の主人、星野屋照蔵が訪ねてきます。
照蔵とおたかは、深い仲にあります。
相場に手を出して損をした照蔵は、
店をたたむことになり、おたかにも20両の手切れ金で別れてほしいと持ちかけます。
しかし、おたかは、手切れ金より、なぜ一緒に死のうと言わないのか、
と問い詰めます。
その言葉に喜んだ照蔵は、その夜九つに吾妻橋から身投げをしようと約束して
帰っていきます。
しかし、当のおたかは、死ぬ気がさらさらありません。
母のお熊に相談し、心中に見せかけて、照蔵だけ身投げさせるよう、
稽古を始めるのでした。
第二部 吾妻橋の場
吾妻橋にやってきたおたかと照蔵。
橋の真ん中から川へ飛び込もうとしますが、
おたかはなんやかんや言い訳をして飛び込もうとしません。
照蔵は、おたかの手をとって飛び込もうとしますが、
そこに母のお熊が現れもみ合いになるうちに、
照蔵だけが川へ落ちてしまいます。
第三部 元の稽古屋座敷の場
家に戻った、おたかとお熊のところに、
照蔵を引き合わせた和泉屋藤助がやってきます。
なんでも、自分の枕元に、照蔵の幽霊が現れ、
心中の約束をしたのに自分だけ助かったおたかに
恨み言を言い、取り殺すと言ったと伝えます。
それを聞き、恐怖におののくおたか。
実情を、藤助に話し、どうしたらいいか相談します。
藤助は、髪を下ろして尼になるように勧め、
お熊の説得もあり、
おたかは自慢の黒髪を下ろすことにします。
そこへ幽霊姿の照蔵が現れます。
実は、心中話は、おたかの本心を試すための芝居だったのです。
髪を下ろしたおたかに対し、哀れむ照蔵に、
切り髪は髢(かもじ)だったと明かすおたか。
ここから、おたか親子と照蔵らの
芝居のネタが明かされます。
まるで狐と狸の化かし合いです。
照蔵は、怒って帰って行った後、
おたかがお熊に告白したことは。。。
「心中月夜の星野屋」の見どころは?
とにかく、笑いのツボを心得た面白い演目です。
最後までどうなるかわからない、どんでん返しを
楽しんでほしいですね。
その上で2点、見どころを紹介します!
最後はどうなる?男女の化かし合い
第二場までは、照蔵を騙そうとするお高遠熊のやりとりが主となります。
しかし、実は、、、が明かされる第三場では、
男女のそれぞれの思惑が明らかになるのです。
こっちが笑えば、あっちが笑う。
どこまで、相手を騙すのか?
あの手この手のうありとりが繰り広げられます。
最終的に軍配があがるのは?
それは幕が閉まる寸前までわからない・・・という、
最後まで目が離せないストーリーなのです。
落語を題材にした滑稽なやりとり
原作が古典落語ということもあり、
随所に笑いのネタが散りばめられています。
テンポの良いギャグに笑いが止まらないのは必須です。
登場人物は少ないのですが、
癖のあるキャラが、それぞれ放つ言葉のやりとり、
どこまでもおちゃらける役者のサービス精神。
笑わせる演目は、とことん笑わせるのも、
歌舞伎のお芝居の特徴なのですね。
「心中月夜の星野屋」令和2年12月大歌舞伎の感激感想
12月3日(木)に「心中月夜の星野屋」を観劇しました。
ワハワハ笑って、スッキリ明るい気分になりました。
私の主観ですが、印象に残ったことベスト3を紹介します。
ぜひご覧になることをお勧めします。
「心中月夜星野屋」が再々演 中村七之助「今こそ楽しんで」 歌舞伎座 https://t.co/lZ0LWxJVj6 @Sankei_newsより
— kabukist (@kabukist1) December 3, 2020
ベスト3:市川中車、ひょっとしてアドリブ?
星野照蔵は、青物問屋の主人だけどお金に細かい。
そろばんを持ち歩いて、
損得を計算しているような不粋な男ですね。
それを中車さんが演じると、
さらに、妙ちくりんなキャラクターになります。
出からいきなり、
虫が好かない、、と言われて、
「おらあ、虫が好きなんだ!」
知ってる知ってる~~と
客席は大喜び。
カマキリ先生&大和田常務色をあえて濃くしているのか?
そんな見方をしてしまうほど、
どこまで台本でどこまでがアドリブなのかわからない
独自ワールドを醸し出す、怪演っぷりでした。
やはり、役者としての技は超一流だなあ~~。
引っ込みの時は、
花道で「もういいDEATH!」とあの仕草をして、
最後まで客席を沸かせていました。
*市川中車とは?はこちらをどうぞ
ベスト2:市川猿弥、破壊力半端ない笑いの宝庫
母お熊、マスクをして登場したところから、
一気に笑いの世界に入っちゃいました。
第3波とか、3週間の我慢とか、
11月に続き、ご時世ネタを絶妙に取り入れる才能はなんなんでしょう?
芝居を見ているのかコントを見ているのか、
わからなくなるくらいに、
七之助さん演じるおたかとのやりとりが笑える笑える~~。
破壊力半端ない、笑いの砲弾を撃ち込んでいるって感じでした。
特に、会場を沸かせたのが、
欄干から飛び込むふりして、後ろに飛べとおたかを稽古する場面。
あの体格で、両足をぴょんと前に蹴り上げ、後ろ跳び。
一瞬何を見たのかと目を疑うほどの見事な水平ジャンプ!
サービス精神溢れる猿弥お熊さんは、何度も跳んで見せてくれましたが、
身体能力の高さを垣間見た気がしました。
お芝居自体が、化かし合いなので、
だんだんエスカレートしていくところも、
一緒にテンションが上がってしまいました。
ますます、大好きになっちゃった猿弥さんです。
ベスト1:中村七之助、美しきコメディエンヌ、さすが中村屋!
中村七之助さんのおたかさん。
綺麗なだけじゃなくって、
悪気はないけと邪気があるしたたかな女性。
旦那のことも心中のことも、あんまり深刻に考えてなくて、
ある意味自己中なんだけど、憎めません。
そういう、ちょっとした台詞回しや所作に、
坂東玉三郎さんと被るところがありました。
素の七之助さんが出ているんじゃないかしら、って思える
いたずらっ気のある表情もとても魅力的でした。
普通にしていてもおかしみを出せる役者さんだなあと実感。
そういえば、中村勘三郎さんも、とってもお茶目で愛されキャラでしたよね。
兄の勘九郎さん共々、その茶目っ気は受け継いでいるのかもしれないなと思いました。
おたかさんに戻りますが、
そもそも照蔵への本心を試されていたわけで、
その点は不実なんだけど、
自分の気持ちには忠実なんですよね。
そこが、微妙なズレを生じさせて笑を引き起こす、
そんなおたかさんを自然に見せられる七之助さんは、
コメディエンヌとしての才能も豊かだなあと思いました。
*中村七之助とは?はこちらをどうぞ
3度目の上演、七之助さん、中車さん、亀蔵さんは
3度目の顔合わせです。
息がぴったり合ったメンバーだからこそ、
タイミング良いアドリブも可能なんだろうなあと思えました。
お腹の底から笑って笑って、観た後は気持ちがアゲアゲになりました。
こんな、ご時世だからこそ、観て欲しい演目です。
読んでくださり、ありがとう存じまする。
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