景清とは、平家物語に登場する平家方の武将のことです。
あまりの強さに、悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)の異名もあります。
歌舞伎では、成田屋の歌舞伎十八番にある「景清」が有名ですが、
それ以外の演目にも取り上げられている人気のキャラクターなんです。
歌舞伎十八番景清と景清が活躍する他の演目を併せて紹介します。
景清【歌舞伎十八番】のあらすじ・登場人物
歌舞伎十八番の景清についてまず始めにお伝えしますね。
景清【歌舞伎十八番】のあらすじ
時は鎌倉時代、平家滅亡後、平家の武将悪七兵衛景清は
鎌倉方に捕らえられ、土牢に押し込められています。
その景清を源氏の味方につけようと、
また、平家が持つ宝、青山の琵琶と青葉の笛の行方を聞き出そうと、
源氏の重臣である秩父重忠と岩永左衛門がやってきます。
しかし、景清はちっとも相手にしません。
そこで、景清の妻子である阿古屋と人丸、
さらには平敦盛の遺児である保童丸も連れてきて
脅しますが、逆に怒鳴りつけられる始末。
秩父重忠は、箏と胡弓を用意し、阿古屋と人丸に奏でさせます。
それは、妻子の手による音曲で、景清の心を和ませようという作戦。
すると、演じる楽器より雲気が立ち上ります。
これこそ、宝である琵琶と笛のありかを指し示すと
秩父重忠は色めき立ちますが、
岩永はそれを手ぬるいと取りやめさせます。
そして、拷問により責めようとするのです。
ここまできてとうとう景清は怒りを爆発させ、
牢を破って大暴れをし、阿古屋たちを逃がします。
岩永は止めようとしますが、
秩父は頼朝公より3度見逃せと言われているため、
景清が立ち去るのを許します。
景清は、再会を約束して去っていくのでした。
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この芝居の醍醐味は、荒事にあります。
牢に囚われた景清が、暴れ出し、
牢を破って出てきて、敵をやっつける、
そこに人気があるんですよ。
かっこいいヒーローが大暴れするって
見ていてスカッとしますよね。
景清【歌舞伎十八番】の主な登場人物
悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ):主人公、平家の武将。勇猛果敢で知られ、源氏に捉えられるが、味方になることを拒否する
秩父重忠:源氏の重臣、怜悧明晰で人情味がある。
岩永左衛門:源氏の重臣、秩父とは違い残忍で考えが浅い
阿古屋:傾城であり、景清の妻
人丸:阿古屋の娘
景清【歌舞伎十八番】は人気演目、海老蔵、成田屋との関係
景清は、市川團十郎家が江戸時代に創設した、成田屋十八番の一演目です。
但し、1842年に当時5代目市川海老蔵(7代目市川團十郎)がこの演目を演じた時、
幕府からお咎めを受け、興行が中止。
そればかりでなく、海老蔵本人も手鎖となり江戸から追放されてしまいました。
ヒョエ~~~
大衆演劇が、お上によりそんな仕打ちを受けることがあるなんて、
びっくりです。
それにより、この景清はしばらく封印されてしまうのです。
大衆に人気の演目だっただけに、みんなガッカリしたでしょうね。
やっと演じられるようになったのは明治時代だということ。
長かったですね。
でも、成田屋の市川團十郎が演じられるようになったのはそれよりも後、
昭和の時代1973年だそうです。
現代でも見られる歌舞伎へと改善し、演じたのが、
当時10代目の市川海老蔵(12代目市川團十郎)、
現在の海老蔵のお父さんだったそうですよ~~。
この方は、復活狂言に熱心に取り組んでいたこともあり、
お家芸の上演を実現させたのです。
本来なら(コロナがなければ)、
3代目市川團十郎白猿襲名公演で演じられる予定でした。
(クソ、コロナめ~~~)
成田屋らしい、荒事が印象の強い「景清」。
延期になった襲名披露を楽しみにしています。
成田屋歌舞伎十八番についてはこちらにも書いているのでお読みくださいね。
因みに、この十八番の中には、景清由来の演目があと2つあります。
「鎌髭(かまひげ)」「解脱(げだつ)」「関羽(かんう)」です。
これらは、後述しますのでそちらを参考になさってくださいね。
景清とは平家の英雄、悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)
では、ここでこの景清についてもう少し紹介しますね。
本名は、藤原景清。
1196年ごろに生まれ、鎌倉時代の初期に、
平家の武将として活躍しました。
そのため、平景清という呼び名もあったそうです。
あまりにも勇猛なので、悪七兵衛という名もついていますが、
悪い人という意味ではないようです。
実在してはいるものの、
謎の多い人物だったそうで、たくさんのエピソードがあります。
源平合戦では、源氏方の美尾屋十郎の錣(しころ)を素手で引きちぎったというものもあり、
歌舞伎の演目(後述)にもなっています。
源頼朝に仕えるように言われ、それを拒否するために
両目をくり抜いたという伝説もあります。
これは、目を洗った井戸というのがありちょっと怖いエピソードです。
歌舞伎「景清」の舞台になった土牢は鎌倉市に現存するそうです。
歴史上の人物で人気なキャラクターというと
源義経を思い浮かべます。
その敵方の武将景清も、
不思議なエピソードや由来の地が多くて、
人気の高さがうかがえますね。
私は、あまり興味はなかったのですが(義経の方が好き)、
詳しく知りたくなってしまいました。
景清が登場する歌舞伎演目紹介
歌舞伎十八番に登場する景清
歌舞伎十八番「鎌髭」
源氏の武将三保谷四郎は、鍛冶屋の主人に化けて景清を討ち取ろうとします。
そこへ、修行僧姿の景清がやってきて酒を所望します。
のびた髭を沿ってもらいたいとまで言いだし、
三保谷たちは絶好の機会と、大鎌で首を取ろうとしますが、
不死身の景清を切ることができません。
初めから、計略に乗って縄にかかるつもりの景清は
自らを差し出し縄に引かれていく、という内容です。
歌舞伎十八番「解脱」
嫉妬して男を追う人丸姫が、釣鐘の中に入っていく。
悪七兵衛景清の亡霊、が薄衣を被った娘の姿となり現れ、
恨みや迷いを訴えながら舞い、
得脱して景清の姿に戻り消えていく、という内容です。
歌舞伎十八番「関羽」
三河守の範頼が、王位をねらっていると知った景清、
張飛の姿で範頼の館へ忍び込見ます。
すると、畠山重忠が関羽の姿で馬に乗って現れ、
2人の武将が活躍するという内容です。
江戸時代に、すでに関羽と張飛の物語を取り入れているとは、
成田屋はやっぱり新しいものに敏感ですね。
人気の高い歌舞伎演目に登場する景清
「壇浦兜軍記~阿古屋~(だんのうらかぶとぐんき~あこや~)」
平家滅亡後、
平家の武将悪七兵衛景清の行方を詮議するため、
問注所に引き出された景清の愛人、遊君阿古屋。
景清の所在を知らないという阿古屋に対し、
岩永左衛門は拷問にかけようと主張しますが、
詮議の指揮を執る重忠はこれを制します。
重忠が阿古屋の心の内を推し量るために用意させたのは、
琴、三味線、胡弓。
言葉に偽りがあれば音色が乱れるはずだと、
三曲の演奏を命じられた阿古屋は楽器を弾きこなすという内容です。
景清本人は出てきませんが、その存在を強く感じるお芝居です。
「阿古屋」はとても好きな芝居です。
玉三郎の阿古屋は絶品ですが、
梅枝、児太郎の阿古屋もなかなか素敵でしたよ。
絢爛豪華で誇り高い遊軍の阿古屋、
美しすぎてドキドキしますよ。
「孤高勇士嬢景清(ここうのゆうしむすめかげきよ)」
平家を滅亡させて権力を掌握した源氏の大将・頼朝。
平家によって焼き払われた奈良・東大寺の大仏殿を再興し、
秩父庄司重忠ら家臣と共に落慶供養に臨みます。
そこへ、頼朝の命を狙う景清が斬り込みますが、
頼朝は、平家への忠誠を貫く景清を称え、
自分に仕えるよう説得します。
景清は、頼朝の仁心に感じつつも、源氏へ従うことを潔しとせず、
二度と復讐をしない証に両目を刺し貫き、立ち去ります。
一方、幼少の時に景清と別れた娘の糸滝は、
父が盲目となって零落し、日向国(現在の宮崎県)に暮らすと聞き、
駿河国(現在の静岡県)手越の宿の遊女屋・花菱屋に
身を売った金を携えて、肝煎の左治太夫を伴い、
景清の許を訪ねます。
景清は、頑なに頼朝への帰順を拒み続けていました。
しかし、糸滝の献身的な愛情を知り、激しく苦悩するという内容のお芝居です。
このお芝居は、前半と後半の景清の違いに驚きました。
しかし、意志を貫く強さや娘や主君を思う
情の深さは変わらず、
その存在が胸を打つお芝居だと思いました。
「錣引(しころびき)」
源平合戦の時代、霊験あらたかな摂州摩耶山へ、
平家の人々が戦勝祈願と帝の病平癒の祈りのためにやってきます。
ところが、源氏の兵が、平家が持参した宝を盗もうとし、
宝は谷底へ落ちてしまいます。
その谷底では、巡礼の七兵衛と虚無僧の次郎蔵がおり、
話をしているところ。
しかしこの2人の正体は、
七兵衛は悪七兵衛景清、対する次郎蔵は源氏の武将三保谷四郎国俊。
正体を明かした二人は一騎討ちをするという内容です。
源平合戦の中でも有名なエピソードのお芝居です。
美保谷と景清の絡みは多いです。
2人の対決が、歌舞伎の中でも名勝負と
言われているのでしょうね。
そういうことを知っていると、より楽しめますね。
「宮島のだんまり(みやじまのだんまり)」
宮島の厳島神社を舞台に、登場人物らが事件の発端となる宝を
無言で探り合うというお芝居です。
「~~のだんまり」は、他のお芝居にも見られますが、
芝居の顔ぶれや登場人物の紹介も兼ねた舞台です。
「通し狂言 壽三升景清(ことほいでみますかげきよ)」
景清が登場する歌舞伎十八番の演目をもとに、
11代目市川海老蔵が通し狂言として構成した新作歌舞伎です。
悪七兵衛景清が、合戦に敗れた後、
関羽となって一騎で館に攻め込む夢を見たり、
鍛冶屋を営む三保谷四郎らの元に行き、
髭を剃ってくれと言い、自ら縄にかかったり、
牢に捕らえられている景清に会いに行った阿古屋の危機を知り、
それを救おうと牢から暴れ出たりと
おなじみのエピソードをつなぎ荒事を見せる成田屋ならではの芝居です。
海老蔵はすごいなあと思っちゃう芝居です。
成田屋の芸の深さというか大きさを
実感しますね。
景清は、能・落語でも人気の英雄
実は景清は、「能」「落語」での題材に使われています。
「能 景清」は、
シテが悪七兵衛景清、ツレが景清の娘人丸となっています。
盲目となり、宮崎の日向で乞食同様の暮らしをしている景清を
人丸が訪ね、父と娘が出会い涙するという内容となっています。
ここでは、勇者としてではなく、
すでに世から離れ俗人として暮らす景清が描かれます。
能としては4番目物に属するということです。
「落語 景清」は、
古典落語で上方落語の1つだそうです。
主人公は京都の目貫師の定次郎。
急に失明してしまい、哀れに思った近くの旦那が、
神仏に願うように進めます。
これが思うようにいかないのですが、
再び清水の観音様に行くように諭されます。
この観音は、悪七兵衛景清が自分のくりぬいた目を奉納した
と言われているということ、
そこで定次郎は日参するのですがやはり目は開かない。
100日参っても治らない、これだと母親が嘆き悲しむと、
諦めて帰る途中定次郎に雷が落ち、気を失います。
気づくと目が見えるようになっているではありませんか・・。
という内容です。
江戸版だと、上野の清水観音が舞台になっています。
能や落語にも登場するとは、
古くから景清の人気は高いのだなあと感じますね。
どちらも、猛者としてではない描き方が、
ちょっと意外でした。
歌舞伎十八番の演目として名高い「景清」は、
人物としての人気や評価も高く、
伝統芸能の様々な場面に登場するヒーローでもあるのですね。
市川團十郎白猿の襲名披露を待ちつつも、
24時間テレビで、この「景清」をテーマにしたスペシャル歌舞伎が放映されるとのこと。
時代を経て描かれてきた景清が、令和の時代にどう活躍するのか、
これも楽しみにしたいと思います。
読んでくださり、ありがとう存じまする。
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