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国立劇場11月「孤高勇士嬢景清(ここうのゆうしむすめかげきよ)」あらすじ、感想、吉右衛門の叫びが胸を打つ舞台、充実の播磨屋

観劇レポート
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11月の国立劇場の歌舞伎公演は、

「通し狂言 孤高勇士嬢景清(ここうのゆうしむすめかげきよ)」です。

これは、明治以降初めての幕を含めた、通し狂言です。

歴史物の醍醐味をじっくり味わいたい作品、

そのあらすじ、感想、見どころについて紹介します。



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通し狂言 孤高勇士嬢景清について~演目・主な配役・ちょっと詳しいあらすじ・感想~

通し狂言 孤高勇士嬢景清(ここうのゆうしむすめかげきよ) 四幕五場

― 日向嶋 (ひゅうがじま) ―

西沢一風・田中千柳=作『大仏殿万代石楚』、若竹笛躬・黒蔵主・中邑阿契=作『嬢景清八嶋日記』 より、国立劇場文芸研究会=補綴

(主な配役)

悪七兵衛景清              中村 吉右衛門

源頼朝/花菱屋長        中村 歌六

肝煎左治太夫              中村 又五郎

仁田四郎忠常              中村 松江

三保谷四郎国時           中村 歌昇

里人実ハ天野四郎        中村 種之助

里人実ハ土屋郡内        中村 鷹之資

玉衣姫                        中村 米吉

秩父庄司重忠              中村 錦之助

景清娘糸滝                 中村 雀右衛門

花菱屋女房おくま       中村 東蔵

 

序  幕 鎌倉大倉御所の場

平家を滅亡させて権力を掌握した源氏の大将・頼朝(よりとも)。

重臣たちの前で、東大寺大仏殿の再興について

話しているところに三保谷四郎国時が

合戦で得た平家の重宝を携えてやってきます。

その中には、頼朝の正妻政子の

妹の玉衣姫の許嫁であった平知章自筆の経もありました。

それを須磨のお寺に納める前に、

玉衣姫に見せたいと申し出るのですが、

頼朝はそれを拒みます。

聞いていた玉衣姫は、頼朝に懇願するものの、

姫が知章の後を追って自害すると見抜いていた

頼朝は聞き入れません。

しかし、一途な想いの姫に、

納経の使者として出立し、

須磨寺で終生平家一門を弔うことを勧めます。

姫はその計らいに感謝するのでした。

一方、皆の気がかりは、

平家の剛勇である悪七兵衛景清が、

いつ頼朝の命を狙うやもしれないということでした。

・・・・・・・・・・

中村歌六の源頼朝は、

気品があり懐の大きな人格者として

存在感を示していました。

その姿から、世は源氏の時代に移り

平和な時を迎えていることがわかります。

若手では、中村米吉演じる玉衣姫の

美しく可憐なこと。

愛しい人を思い、出家を決意する芯の強さも

感じさせました。

また、中村歌昇も、三保谷を好演。

感情が豊かな猛者を魅力たっぷりに見せていました。

 

二幕目 南都東大寺大仏供養の場

平家によって焼き払われた奈良・東大寺の大仏殿を再興し、

秩父庄司重忠(ちちぶのしょうじしげただ)ら家臣と共に

落慶供養に臨みます。

そこへ、頼朝の命を狙う景清が斬り込みます。

合戦の恥辱を果たしたい美保谷が勝負を挑みますが、

景清の強さは群を抜き、相手になりません。

「仇」という景清に対し頼朝は、

平家の驕りが招いた世の混乱に対し、

後白河法皇の院宣により平家を討ったことは道理と説きます。

反論できない景時に、

頼朝は、平家への忠誠を貫く景清を称え、

自分に仕えるよう説得します。

景清は、頼朝の仁心に感じつつも、源氏へ従うことを潔しとせず、

二度と復讐をしない証(あかし)に両目を刺し貫き、立ち去ります。

・・・・・・・・・・

颯爽と登場の吉右衛門景清。

力強く豪胆で、僧兵たちを次々と投げ飛ばします。

堂々とした姿はまさに名が知れた勇者、

その名乗りや見栄は見ていて気持ちがいいものでした。

平家の驕りを突かれ、何も言えなくなったり、

また、見ると恨みが募ると両目を刺し貫いたり、

その様子から景清の人となりがよくわかります。

情けは受けても義を全うする、

その悲壮な覚悟は前半の勢いとは対照的に、

胸が苦しくなるものでした。



三幕目 手越宿花菱屋の場

駿河国(現在の静岡県)手越(てごし)の宿(しゅく)の

遊女屋・花菱屋に、

肝煎(きもいり)の左治太夫(さじだゆう)に

連れられた影居の娘糸滝(いとたき)が現れます。

幼少の時に景清と別れた糸滝は、

父が盲目となって零落し、

日向国(現在の宮崎県)に暮らしていることを知り、

身を売ったお金で、父を救おうと考えます。

その心を知った花菱屋の主人や、遊女たちが

糸滝のためにお金を送ろうとします。

その志を受け、糸滝は左治太夫と日向の国に向かうのでした。

・・・・・・・・・・

まずびっくりしたのは、

頼朝を演じていた歌六が、

この幕では、尻にしかれる亭主役を演じていて、

それがまたぴったりとはまっていたこと。

頼朝様と同じ方とは・・・って感じ・

次に驚いたのが、

雀右衛門演じる糸滝は14歳ということ、

え~って思ったけど14歳に見えた。

さらに、花菱屋の女房、

中村歌六の亭主を尻に敷く、人使いが荒く欲深い女房、

これを演じていた中村東蔵が

またぴ~ったしはまってる。

そして、この幕に出てくる人はみ~んないい人。

状況は悲しいんですけど人たちの優しさが

心にじんわりきました。

 

四幕目 日向嶋浜辺の場・ 日向灘海上の場

浜辺の庵には、落ちぶれた景清が暮らしていました。

左治太夫を伴った糸滝を乗せた船が、

その浜辺にたどり着きます。

糸滝は、景清を父と思いすがりつきますが、

“景清は昨年死んだ”と突き放します。

絶望して海に身を投げようとする糸滝ですが、

通りかかった里人から、

先の老人が景清であると聞き、

引き合わせてもらうことにします。

改めて再会した景清と白滝。

しかし、百姓に嫁ぎ、その家からのお金を

官位取得のために持参した、と話す糸滝らに、

景清は、武士の娘が百姓に嫁ぐとは、、と急に怒りを露わにします。

その剣幕に恐れをなし、船に乗って去っていく姿に、

景清は、怒りは偽りであり末長く幸せにと呼びかけます。

里人は、佐治大夫が置いていった文箱の中の書き置きに気づき、

その文を景清に読んで聞かせます。

そこには、糸滝が遊女宿に身を売ってお金を工面したことが

書かれていたのです。

最善の怒りから、己の無力さ、

天に背いた平家に忠義を尽くした報いを悔い入り、

慟哭する景清でした。

それを見ていた里人、実は鎌倉の隠し目付けの

土屋郡内と天野四郎は、

今こそ頼朝の申し出を受け、

源氏に従うことを勧めます。

それを受けた景清は糸滝を伴い、

土屋・天野らと船で帰参します。

海路を進む景清、

重盛の位牌を海に投げ、冥福を祈るのでした。

・・・・・・・・・・・

3幕の猛者ぶりから一転、

落ちぶれた老人姿の景清が痛々しいこと。

糸滝が自分のために身を売ったことを知り、

海に向かって慟哭するシーン。

景清の心からの叫びが、胸に突き刺さりました。

忠義を尽くしてきたことが、

却って自分だけではなく娘の身にも苦難を強いていることに

気づいた瞬間でした。

                 

この演目は、

吉右衛門が、昭和47年(1972)に、

当劇場で実父・八代目幸四郎(初代白鸚)が勤めた景清を、

平成17年(2005)に継承して以来14年振りに、

さらに練り上げて演じるものです。

源氏への憎しみを捨て切れず、孤忠の武士として生きようとする景清が

父親として葛藤する心情も描くことで、

骨太な人間ドラマへ仕上がっていました。

*中村吉右衛門については、こちらにも書いていますのでよかったらお読みください。

中村吉右衛門の息子と家系図、兄松本白鸚との確執も若い頃はあったのか
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*中村雀右衛門については、こちらにも書いていますのでよかったらお読みください。

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歌舞伎役者中村雀右衛門は、女形歌舞伎役者の第一人者です。 お父さまからこの名を受け継いだのが2016年、 古典的な美しさと確かな演技力で、 娘役から女房役まで、幅広い女性を演じているんですよ。 中村雀右衛門の弟は、大谷友右衛門という歌舞伎役...



「孤高勇士嬢景清」勝手にベスト3

私が観劇して感じたベスト3を紹介します。

ベスト1:吉右衛門熱演に忠義とは何かを考えた

景清の言動から、

景清にとっての、いや、本当の忠義とはどういうものだろう?

と考えさせられました。

歌舞伎の演目には、

忠義のため家族をも犠牲にするというストーリーは

多いです。

この景清は主君重盛に仕えることが忠義だと

信じていたと思います。

なので、天を謀った平家ではありながらも、

源氏につくことを良しとしませんでした。

でも、糸滝の献身に心を動かされた景清は

考えを改めたのだと思いました。

私がその姿から思ったのは、

忠義とは人ではなく信念に基づくもの、

大切な人の幸せのために生きると決めた景清は、

それまでの憑き物が落ちたように、

晴れ晴れとした様子に見えました。

 

ベスト2:娘役雀右衛門が娘にしか見えなかった

感想でも書いたのですが、

雀右衛門演じる糸滝は14歳、

その通りに見えたことに驚きを感じました。

この芝居に出てくる主要な女形は、

糸滝の他に、米吉演じる玉衣姫、

東蔵演じるおくまです。

同じ健気でも、

お姫様の健気さと、

父を思う娘の健気さは違うのだと

糸滝を見ていて感じました。

衣装や鬘も娘らしいものでしたけど、

それ以上に目線や細かな所作で、

娘らしさを表現した雀右衛門はすごいなあと感じたのです。



ベスト3:播磨屋の層の充実を感じたベテランと若手

舞台へ屋号のかけ声がかかるのですが、

「播磨屋」「播磨屋」・・・のオンパレード。

たまに、「萬屋」「加賀屋」「京屋」なども入りましたが、

ほぼ「播磨屋」尽くし。

ええ、確かに役者さんたち「播磨屋」が多かったです。

屋号実況中継をしたら、

「播磨屋」が「播磨屋」を・・・・・。

すると「播磨屋」に対し「播磨屋」が・・・。

みたいになってしまいそう。

その「播磨屋」、中村吉右衛門を筆頭に、

中村歌六、中村又五郎のベテラン勢に交じり、

中村歌昇、中村米吉など若手も、

伸び伸びと演技をしていました。

こう見ると、すごく層が充実していることを感じます。

舞台通して、一体感も感じられたのは、

それも関係していたのかもしれないですね。

*中村歌六についてはこちらの記事にも書いていますので、よかったらお読みくださいね。

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おまけ:舞台美術が素晴らしい

大道具さんのレベルが高いなあと思いました。

特に、3幕・4幕の海岸、海原は、

その場にいるような感じを受けました。



国立劇場11月歌舞伎公演のチケット・幕見席について

チケットは国立劇場へ直接購入することになります。

電話とインターネット、両方の扱いがあります。

国立劇場チケットセンター(午前10時~午後6時)

0570-07-9900

03-3230-3000[一部IP電話等]

インターネット購入

https://ticket.ntj.jac.go.jp/(パソコン・スマートフォン共通)

特別席 12,800円(学生9,000円)

1等A席 10,000円(学生7,000円)

1等B席  6,500円(学生4,600円)

2等A席  5,000円(学生3,500円)

2等B席  2,800円(学生2,000円)

3等席  1,800円(学生1,300円)

当日の幕見席も若干ですが出ていました。

座席は、4階の最後列(24席)になります。

時間と料金は以下の通りです。

通しの方が安いという不思議な設定です。

演 目 料金 集合時間 開演時間 終演予定
A 序  幕 鎌倉大倉御所の場

二幕目 南都東大寺大仏供養の場

4,000円 11:45 12:00 12:30
<休憩15分>
12:45 13:15
<休憩35分>
B 三幕目 手越宿花菱屋の場 3,000円 13:35 13:50 14:25
<休憩10分>
C 四幕目 日向嶋浜辺の場

日向灘海上の場

3,500円 14:20 14:35 15:40

とてもいい作品でした。

国立劇場の歌舞伎は、この値段で見られる、ということに感激です。

千秋楽は25日(月)です、見応えがあるお芝居ですよ。

読んでくださり、ありがとう存じまする。



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