歌舞伎演目紹介「阿古屋」、あらすじ、登場人物、女形の最難役〜玉三郎から梅枝、児太郎への継承〜

女形の難役と言われる「阿古屋」。

2018年に続き2019年12月も歌舞伎座で上演されます。

この「阿古屋」について、

坂東玉三郎から、中村梅枝、中村小太郎への継承の

話題も含め、紹介します。



「阿古屋」壇浦兜軍記とはどういうお芝居なのか?

演目名は、「壇浦兜軍記~阿古屋~」

1732年9月に大阪の竹本座で上演された、

人形浄瑠璃を原作にしています。

全部で五段まであるお芝居ですが、

通常歌舞伎で演じられるのはその三段目、

「阿古屋」だけなのだそうです。

物語は、鎌倉初期を舞台に、

源平合戦ではその武勇を謳われ、

平家滅亡後も源頼朝の首を狙う、

悪七兵衛景清をとらえんとする鎌倉方の武将が、

景清の愛人阿古屋を責める場面です。

阿古屋に扮する女方が、

実際に舞台で三曲(琴、三味線、胡弓)を弾きこなし、

その音に乗せて阿古屋という女性の複雑な心を表現することを

求められるのです。

そんなことから、この阿古屋は

3曲どころか、1曲も弾けない私からしたら、

天の上に登っても手が届かないんじゃないかって

思うくらいすごいお役なんですよ。

「阿古屋」壇浦兜軍記のあらすじ

ここでは、歌舞伎で上演される三段目のみを紹介します。

源氏は平家の残党、剛勇で知られた悪七兵衛景清の行方を追っています。

禁裏守護の代官に任じられた秩父庄司畠山重忠は、

堀川御所で、景清の愛人でその子供を身籠っている

五條坂の遊君阿古屋を呼び出だし

今まさに取り調べようとしています。

そこへ阿古屋は、

豪華な打掛を羽織り、髪を飾り装いを凝らした遊女の正装で現れます。

縄もかけられてはいないその姿に、詮議の助役、

岩永左衛門は、不服で、

拷問にかけて白状させると息まきますが、

重忠はそれを押しとどめ、

義理と情を売り物にする遊君の心情を尊重し、

景清のありかを白状した方がよかろうと諭します。

その言葉に心がほだされる阿古屋ですが、

知らないものは白状のしようがないと突っぱねるのです。

やむなく重忠は、

責め道具を持ち出すように命じますが、

運び込まれたのは、琴、三味線、胡弓でした。

重忠は阿古屋にここで琴を演奏することを命じ、

そのままに、琴を弾き唄う阿古屋でした。

箏曲の蕗組の唱歌の歌詞を景清と自分の身に例え、

景清の行方はあくまでも知らぬとうたいます。

重忠は続いて三味線を弾くよう命じます。

阿古屋が三味線を弾きながらうたったのは、

帝の寵愛を失った中国の官女の故事に由来する謡曲『班女』の歌詞。

「秋が来る前にかならず会おうと言ったのに…」

顧みられぬわが身に例えてうたいます。

重忠は、今度は胡弓を弾くように命じます。

 「吉野龍田の花紅葉、更科、越路の月雪も

夢と冷めてはあともなし」と、

 景清との恋の終わりをうたう阿古屋でした。

心を澄ませ耳を傾けた重忠は詮議をやめさせます。

なぜ止めると不服顔の岩永に、

阿古屋の奏でる音色に曇りがなく、

景清の行方を知らないという言葉に偽りはない、

女の心を見る拷問は終わりだと言い、

阿古屋をいたわるように部下の榛沢に命じるのでした。



「阿古屋」壇浦兜軍記の登場人物は主に4人、ほぼ阿古屋の独断場

阿古屋【あこや】

京都五條坂の遊女。

平家方の武将悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)の愛人で、

景清の子を身籠っている。

秩父庄司重忠【ちちぶのしょうじしげただ】

秩父庄司は役職名からきた通称で、本来の姓は畠山(はたけやま)。

智勇兼ね備え情にもあつい源氏方の武将。

景清の詮議のために捕えた阿古屋が

嘘をついているかを見極めるために3曲の演奏で試す。

岩永左衛門致連(宗連)【いわながさえもんむねつら】

重忠の助役と称して詮議に同席する武将。

忠義とみせかけて景清への遺恨を晴らそうとしている意地の悪い男。

榛沢六郎成清【はんざわろくろうなりきよ】

重忠が信頼を寄せる家来。重忠の命で、

縄をかけずに阿古屋を白洲まで連行してくる。

阿古屋琴責めの場面は、

ほぼ阿古屋の独断場とも言えるので、

登場人物も他にはあまり語る言葉がないですね。



「阿古屋」が弾きこなす3曲について

3曲とは、琴、三味線、胡弓のことです。

はじめに弾くのは琴です。

ここでは、箏曲の名曲である、

「蕗組(ふきぐみ)」です。

この曲には、7連の歌から成る歌詞が付いているそうですが、

阿古屋が歌う歌詞は替え歌です。

この曲を聴いただけで、蕗組と判断する

重忠の教養の深さも描かれます。

次に弾くのは、三味線です。

ここでは、

帝の寵愛を失った中国の官女の故事に由来する

謡曲『班女』の歌詞を歌います。

秋が来る前に必ず会おうと言ったのに、、、と

つれない身の上を歌に乗せて訴え、

景清の行方を知らぬと言うのです。

最後に弾くのは胡弓です。

「相の山節」というジャンルの門付け歌といわれています。

ここでは、恋の終わりを切々と歌い、

景清に会えない哀しさを訴えるのです。



「阿古屋」役は、なぜ女形の最難役と言われるのか?昭和は歌右衛門、平成は玉三郎のみ!

阿古屋は、詮議の場に、傾城の正装で現れます。

これは、英雄の恋人であるという高い誇りと、

尋問に負けまいとする遊女の意気地を表しており、

単なる役柄の形容ではないそうです。

つまり気位が高く、性根の強い遊君と言う役柄、

さらに、

恋しい人への恋慕を込めて、

3種の楽器を弾きこなし、かつ歌う、

と言う技も要求されるのです。

このようなところから、

至難の役とされてきました。

戦後は十二代目片岡仁左衛門から、

六代目中村歌右衛門に承け継がれ、

ながらく歌右衛門にしか出来ない当たり芸でした。

それまでは、3曲が今ちょっとでも、

下手くそと野次られながらも勤められたお役だったとか。

それを一流の役にまで押し上げたのが、

稀代の名優6台目中村歌右衛門です。

それを1997(平成9)年1月の

国立劇場開場30周年記念公演の『壇浦兜軍記』で、

坂東玉三郎に受け継ぎ、

以来20年余り玉三郎にしかできない役と

言われてきたのです。

つまり、昭和の時代は歌右衛門だけが、

平成の時代は玉三郎だけが演じることができた、、、

というわけです。

最後の1年は新たな継承者も誕生しましたけどね。

6世歌右衛門は、私が観た頃はすでにおじいちゃんでした。

だから、絶世の美女。。。というコピーを見るにつけ、

お元気な頃の歌右衛門女形を拝見したかったです。

*坂東玉三郎についてはこちらに書いていますので、よかったらお読みくださいね。

当代一の女形、坂東玉三郎。 その美しさ、華やかさ、艶やかさ、舞台上ではひときわ光を放つ役者です。 ...



「阿古屋」役、坂東玉三郎から中村梅枝、中村児太郎への継承

坂東玉三郎が、

「阿古屋」を次の世代に継承したい、、、と

考えたのは、約3年前、

平成27年の公演の時だったそうです。

それは、自身が歌右衛門から指導を受けた時の思いが

背景にあるそうです。

2018年の12月、中村梅枝と中村児太郎が

初役で「阿古屋」を勤めると発表した時、

玉三郎は次のような言葉を述べています。

「私がやらせていただくことになったとき、成駒屋さん(六代目歌右衛門)は体調を崩されていて、やっとお話が伺えたという状況だったんです。

自分で演じてみせてあげられて、かつ(演技を)見てあげられるときに受け取ってもらいたいと思って、今回上演することを決めました」

中村梅枝は、3年前に玉三郎から、

阿古屋の衣装を見せてもらったとのこと。

それまでは、自分とは無縁の役と思っていた阿古屋を

やることになるのか、、、と思ったそうです。

もう1人の中村児太郎は、当時毎日舞台を見続け、

千穐楽前日に玉三郎に、

「やりたいんです」と訴えたということ。

他にも女形の役者はいるが、

なぜこの2人だったのか・・・・?

その要因の一つが3曲の演奏だったようです。

2人は、琴、三味線、胡弓の稽古を始め、

その成果を玉三郎の前で演奏する機会があったそうです。

それを見て、玉三郎が、

「今度阿古屋をやるのよ」と、

本格的な稽古が始まったそうなんですよ。

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芸の継承について玉三郎は、

「稽古をすれば、阿古屋を演じられるチャンスがあると思ってもらうことが大事。そうしないと幅が広がらなくなってしまう。どの役もそうですが、誰々でなければ演じられないという固定観念はないほうがいいのかもしれません。」と、

とも語っています。

また、阿古屋を演じる上で大切なこととして、

2つのことが同時にできるかどうかということ。

阿古屋の役になりきった状態で三曲をしっかりと奏でられるか、ということですが、

この阿古屋とは、“源平に関わってしまった傾城”なんですね。

だから、その心”を想像することも大切だと。

想像で役を作り、お客様に伝えるのが俳優の仕事と、

玉三郎の芸への強い思いも合わせて伝えようとしているように見えます。

私は、まだ玉三郎の阿古屋しか見たことがありません。

3曲を演奏し恋しい人への思いを語る傾城が、

そのまま舞台にいたので、

「これが難役なの?」って思ったくらいです。

今考えると、あれが玉三郎のすごさなんでしょうね。

そのお役になりきって「いる」ということ。

今年2019年は、できれば3人の阿古屋を観たいと思っています。

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中村梅枝、中村児太郎、

ともに女形としての力を認められています。

「阿古屋」を演じる、ということにもそれは現れています。

若手への芸の継承のその時に舞台を観られる幸運を

じっくり味わいたいものです。

読んでくださりありがとう存じまする。