「通し狂言仮名手本忠臣蔵」、歌舞伎座の三月は湧きに湧きました。
ダブルキャストで昼夜通し、同じ演目でも違う役者が演じることで
違う感慨が生まれます。
ちょっとした芸にお家の特色が感じられます。
一番最後に観たのが昼の部のAプログラムでした。
一番観たかったのが
仁左衛門さんの由良之助と勘九郎さんの判官。
3月24日に観劇してきました。
忠臣蔵は、忠義の話と思っていたけど、愛の話なんだって実感したお芝居でした。
それぞれ、段ごとに感想を書いていきます。
あ、一番言いたいのが
\このお芝居を観られて幸せだ/
大序:役の性根がくっきり!はじまりは大切だ
Bプロの感想にも書きましたが、
はじまりは古式ゆかしい作法で
ゆっくりと幕が開き、人形のように佇んでいる登場人物が
顔を上げて動き出すところから。
AB共通なのは、中村扇雀さんの足利直義のみ。
それ以外の登場人物は皆役者が変わります。
様式や振りが同じでも、役者が変わると違って見えるのが面白い。
尾上松緑さんの高師直は、はじまりっからいけすかない。腹の底真っ黒に見えます。
尾上松也さんの桃井若狭之助は、真っ直ぐで勝ち気な性分が見てとれます。
最初っから師直嫌いって匂いがプンプンしてる。
中村勘九郎さんの塩冶判官は落ち着いていて誠実な印象、菊之助さんが知性なら勘九郎さんは情が豊かな人物に思えます。
揉め事は好まず、双方の言い分を聞いてお互い納得の行く点を見出そうとするタイプです。
だから、若狭之助と師直の衝突もうまく間に入って、とりなすことができる。
計算というよりも、人の気質を感じ取って受け入れられる懐の深さも感じるのです。
だから、この後の事件を起こすのはなぜなんだろう?
という興味も深まります。
勘九郎さんて、そこまで考えて演じているのか?天性なのか?
兜改めで登場したかおよ御前は片岡孝太郎さん、
無難ではあるんだけど、かおよってもっとおっとりとした色気があった方が
説得力あると思うんです。
そういう点ではちょっと物足りなさが残ります。
癖のある人物が一場に揃い、何か起きるぞ、どうなるどうなる?
と不穏な空気を残した大序でした。
三段目:勘九郎判官の心をくじく松緑師直はデストロイヤーだ!
序盤は、加古川本蔵が師直に賄賂を届けにくる場面
ここで面白かったのが、鷺坂伴内と家来たちのやりとりです。
詳しくはBプロの感想にも書きましたが、
Bプロの伴内は市村橘太郎さんで、
「エヘンと言ったらバッサリだ」と家来に指示をしていたところ、
Aプロの伴内は片岡松之助さんで
「右足をこう出したら、バッサリだ」でした。
これは、上方である松嶋屋の型ではないかというところなんですけどね。
右足なので、足を出せなくなってワタワタする姿も滑稽でした。
動作で笑わせるっていうのも面白い型だなって思いました。
その後は、松の間に場面が移ります。
師直を斬る気満々の若狭之助に対して
みっともないくらいに這いつくばる師直、
これもAプロの方が大袈裟な感じがありました。
松也くん、止めても聞かない感じで突っ走っていったもの。
演技でも怖いよね、本気でとりなす師直の姿は
なんというか軽蔑に値するレベルの低さを見せてくれましたわ。
そこまで落とし込んだからでしょうね、
判官への嫌がらせは、めちゃくちゃでした。
全く、道理が通らない、わけがわからない、
かおよの文もめったぎりっぽい内容だったので
その腹いせだけはわかるんですがね。
勘九郎さんの塩冶判官は、情が深い方だと私は思って見ていたので、
師直のめったくった嫌がらせ攻撃を
なんでなんで??と疑問を持ちながらも懸命に耐えていたと感じます。
それでも途中、グッときて刀に手をかけちゃうんですよね。
だけど、ふっと宙に目を泳がせて
正気を取り戻し、詫びに詫びるのです。
この時、判官は何を見たのだろうか?
と私まで何かを一緒に見たような気持ちにさせられました。
私が見たなと思ったのは、人なんですよね。
かおよ御前もだけど、家中の家来、家来の家族、武士ではない住民まで、
彼らのためにここは我慢をしよう、彼らの平穏を守ろう、って思ったんじゃないかなって。
だけど、師直はデストロイヤーですよ、
そんな判官が大事にしていたあり方をも攻撃することで心を木っ端微塵に砕いたんですよ。
おそらく師直は、判官が怒るわけないって思ってたと思うの、
だからあれだけめちゃくちゃ破壊しまくったんだけど、
情がない人だから傷つけちゃいけないところが分からなかったのでしょうね。
そこであの刃傷事件が起きたんじゃないかなというのが
見ていた私が感じたことです。
だから、悔しくて悲しくて、そこでも涙ですよ。
この感覚はBプロとは違うので、私的にはこっちの方がより心に響きました。
四段目:仁左衛門由良之助の大きさにただただ感動
四段目は、扇ヶ谷に蟄居する塩冶半眼を幕府の上使が訪れるところから。
Aプロの石堂は中村梅玉さん、この人の重みは独特だなって思いました。
感情は出さないけど、温情を感じているお役と
ご本人がインタビューで答えていたのを読んだのですが、
まさに、情を含みながらも幕府の使いという立場を崩さない格を感じました。
これもニンというやつですかね。
薬師寺役の坂東彦三郎さんは、声がいいぶん余計に嫌味が際立つ嫌なやつでした。
この場での見どころはやはり由良之助との対面でしょうか。
仁左衛門さんの由良之助が駆けつけたところで
もう感極まってしまった私です。
これは、にざ様ファンだからというだけではなく、
あの入り方、手のつき方、言葉の絞り出し方、全てに
無念の君主の最後に立ち会わなければという想いが溢れていたからだと思います。
判官の「聞いたか」
由良之助の「は、」
この短い応答に、双方の言葉にならない思いがぎっしり詰まっていました。
最後、判官がどうしても頼りたかったのが由良之助で
なんとかして主君の思いを受け止めたかった由良之助の思いが交錯していました。
そんな二人の関係は、主従を超えて、
父のような息子のような関係性も見え隠れしていました。
後を託して、判官は自らにとどめをさします。
そして、前向きにどうと倒れるのです。
ここからの由良之助の表情、一つ一つの細やかな仕草に
判官への愛が感じられました。
この主君のことが好きだったんだなあ、愛おしく思っていたのだなあと
想像すると涙が止まりませんでした。
勘九郎さんの判官が場の深い人というイメージから言うと
仁左衛門さんの由良之助も人間味があり、愛の気持ちで仕えていた家臣という印象でその組み合わせがぴったりだなあと思いました。
そうそう、勘九郎さんが選んだお香は、割と軽い感じでそこにとどまらずふわりと流れていく感じでした。
葬儀が終わってからの若衆との対話
ここでは、すでに肚が決まっている由良之助、
曖昧で逃げ腰な斧九太夫を心の中でバッサリ切ってます。
だから、その肚をおくびにも出さずに見送るのですが、
その後で吐き捨てるように言い下すのです。
この通しで観たからこそ、
大星由良之助が、いかに主君の無念を晴らすかということだけを考えて行動していることが
ヨックわかりました。
城の開け渡しも、若衆らの暴挙を止めて、去らせることも
その企てを全うするために妥協できないことだったんだなってわかります。
仁左衛門さんの由良之助には、
その一貫した信念と主君への愛が感じられました。
それこそが、演じるを超えて、役をそこに存在させる片岡仁左衛門!
その役者のすごさをしみじみと思い知ったところです。
このお芝居を観た感想はとても深く心に残りました。
これだけの感動を得られたから、それ以上は何もいらないって思うくらいの満足度です。
(評・舞台)歌舞伎座、通し狂言「仮名手本忠臣蔵」 配役鮮やか、新旧充実の競演:朝日新聞 https://t.co/uVHjrP2aQI
— kabukist (@kabukist1) March 27, 2025
道行:隼人勘平と七之助おかるの初顔合わせはビジュアルNO1
道行は、舞踊劇です。
主君を止められなかった、あるいは助けられなかったことに悔いが残る勘平と
それを励ましながら、一緒にいられることにちょっと浮き立つおかる。
二人からはそんな印象を受けました。
今回が、初顔合わせということですが、
とにかく美しいお二人なので見た目だけで満足です。
ここまでの段が重く濃い内容だったので
実はちょっと気が抜けた感じで見ていました。
だから、内容にはあまり踏み込めず
まあ綺麗だわあと脳天気に楽しんでいました。
そこに絡む伴内が坂東巳之助さん。
コミカルな物言いや仕草もバッチリな役者さんです。
この方も舞踊が上手いので
いい取り合わせでした。
はあっと気持ちが晴れた思いで
幕を見送ることができました。
このAプログラムは人間ドラマをも感じさせる印象、
十二分に満足した観劇でした。
時間が経ってから、配信とかDVDが出たら
新たな気分で観てみたいとも思っています。
その他のプログラムの感想や、三月公演のあらましなどもまとめているこちらの記事もぜひお読みください。

お読みくださりありがとう存じまする。
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