6月の歌舞伎座を大いに賑わせた
「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち」は、
6月26日(水)に千秋楽を終えました。
祭りの後の寂しさのようなものを感じていたのですが、
Twitter、Instagram、新聞などのメディアに、
この芝居を振り返るつぶやきをいくつか発見。
今日は、「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち」ロスの皆さまに、
それらを紹介します。
「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち」とは何?
これは、6月の歌舞伎座で催された新作歌舞伎です。
劇作家の三谷幸喜氏が、
みなもと太郎氏の歴史漫画「風雲児たち」を原作に、
書き下ろした、大黒屋光太夫のロシア漂流記。
従来の歌舞伎にはないスケール感や
絢爛豪華なロシア宮廷の場面とともに、
三谷氏が手がける作品の内容が大変な話題となっていました。
10年余りにも及ぶ、
過酷な漂流の物語に、
三谷氏らしいユーモアやちょっとしたエピソードが加わり、
見応えのある大作、完成度の高い芝居でした。
あらすじや芝居の様子はこちらの記事に書いていますので、
ご覧になってない方は参考になさってください。
「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち」を成功に導いた要因は?
演劇評論家でもない、ただの歌舞伎ファンの私が
この芝居が成功裡に終わった要因を3つ考えました。
その1:舞台設営、大道具、小道具のクオリティの高さ
まずは、この芝居の裏方さんたちのお仕事に敬意を評します。
冒頭の難破船の描写から始まり、
極寒のロシアの大地、そして豪奢なロシア宮廷。
天と地との差の舞台を描き分けた大道具。
犬ぞりのリアル感を増した、シベリアンハスキーの被り物。
海からロシアの地、秘境と都会、宮廷へと
場を変えるごとに衣装や髪型が変わることで
その場の状況を如実に語っていました。
音楽も美術も全てが新作です。
新たに作られたこれらのクオリティの高さが、
観客の想像力を掻き立て臨場感を盛り上げていました。
その2:困難に立ち向かうユーモアという武器
三谷幸喜氏の作品の良さに、
登場人物のユーモアの効いたやり取りがあります。
見ていると、本当に重く苦しい芝居です。
それを和らげ、明日への希望を見せるのが、
このユーモアでした。
主人公の光太夫は、
長い漂流の間、日本へ帰るという希望を忘れず、
常に現実と戦い続けました。
辛く苦しい日々だったと思いますが、
その生活にも少しはこういう明るさがあったのではないかと思うと、
ちょっと心が癒されます。
ところどころ、役者さんのアドリブもあったようで、
そこは新作ならではの強みだったのでしょうね。
その3:役者の成長が見られる芝居
この芝居で一番注目されたのは、
おそらく、市川染五郎でしょう。
松本幸四郎、市川猿之助がテレビ番組で話題をさらっていましたし、
彼らの演技が重要な柱だったことも確かです。
しかし、芝居が進むにつれ、
どんどん成長していく市川染五郎の姿に、
感激を覚えた人は少なくないと思います。
私は、毎日、ツイッターで情報を見ていたのですが、
役者仲間からも、一観客からも、
彼の成長に目をみはるというコメントが
上がっていました。
後ほど紹介する、染五郎のインスタグラムでの振り返りにも、
その成長のほどがうかがえます。
もちろん、ゼロから舞台を作り上げた、
出演者一人一人が、
もっと面白く、もっと魅力的に、と
日々努力を重ねる姿も、印象的です。
そういった意味で、役者の成長も見所ではなかったかな
って思っています。
「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち」を終えての三谷幸喜のコラムから
6月27日(木)の朝日新聞に、
三谷幸喜氏のコラム「ありふれた生活950」に、
この舞台のことが取り上げられていました。
そこに書いてあったのは、
三者三様の役者の見事なチームワークから生まれた、
感動のラストシーンのことでした。
三谷氏の分析によると、
松本幸四郎は、正攻法で演技を積み重ねていく役者。
片岡愛之助は、役の心情に寄り添うおおらかな役者。
市川猿之助は、稽古を通じて役を自分のものに仕上げる役者。
この芝居のクライマックスは、
日本に帰る大黒屋光太夫(松本幸四郎)と
ロシアに残る庄蔵(市川猿之助)、新蔵(片岡愛之助)との
別れのシーン。
ここで、見送る庄蔵と新蔵が抱き合って交わす言葉があるのです。
庄蔵「どうしよう・・」
新蔵「でえじょうぶだっ」 ここで幕
このセリフは脚本にはないということです。
脚本家だったら、絶対に考え付かないこのセリフ、
舞台で庄蔵と新蔵を生きた二人から出た生の声。
確かに舞台ではちょっとした笑いも誘ったこのセリフでしたが、
ロシアの地に残って生きる2人の未練や心細さが伝わってきました。
客席にいた私は、
「帰っちゃいなよ~~」って叫びたかったくらいです。
このセリフに心を動かされた観客は
私同様にいるんだろうなあって思います。
そのシーンを作った2人への感謝の言葉で、
三谷氏のコラムは締めくくられていました。
これは、舞台を終えての、
作家から役者へのオマージュであると感じました。
「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち」出演者たちのつぶやきも紹介
さて、Twitter、Instagramからは、
役者たちの生の声、表情が見られました。
1ヶ月、これを追いかけるのも楽しかったです。
その中から、4名の千秋楽を終えての言葉を紹介しますね。
まずは、成長著しかった市川染五郎のInstagramです。
ここでは、磯吉を演じての自分の心の振り返りが書かれています。
市川染五郎のInstagram
次に、坂東彌十郎です。
漂流者の中ではイルクーツクまで生き延びたおじいちゃん。
笑いのツボが絶妙なお役でした。
日本までがんばって帰ってきてほしかったなあ~。
坂東彌十郎のブログ
次は、中村鶴松です。
市川染五郎演じる磯吉と同世代の若者。
彼は、船乗りとしての才はあったけど、生き延びる力が足りず残念。
中村鶴松のTwitter
最後に、俳優の八嶋智人のTwitterです。
毎日のように、舞台裏を嬉々として報告するこのTwitter、
おかげで歌舞伎座にいるような気分になれました。
最後は、11のコメントで感想を披露。これは一番最後の11回目のつぶやきです。
八嶋智人のTwitter
見終わっても、まだまだ語れるこの演目、
「月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち」。
多くの人の心を釘付けにした芝居だったと思います。
気持ちはすでに7月ですが、
その前に、写真入りの筋書きを見返しながら、
もう一度この感動に浸ります。
読んでくださり、ありがとう存じまする。
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