歌舞伎役者の松本白鸚さんが、4月歌舞伎座大歌舞伎で、
史上最高齢で「勧進帳」弁慶役を務めていらっしゃいます。
5日に観劇し、白鸚さんと弁慶が被る姿に涙しました。
その感想をお伝えします。
松本白鸚(はくおう)の「勧進帳」弁慶は史上最高齢記録
松本白鸚(まつもとはくおう)さんは、現在78歳です。
歌舞伎界の中でもご高齢の役者さんです。
その白鸚さんは、16歳の時より「勧進帳」の弁慶役を演じ続け、
約60年余りで1150回の上演記録を達成したそうです。
達成したのは、令和3年4月3日(土)の歌舞伎座4月大歌舞伎でした。
弁慶役といえば、白鸚さんの祖父にあたる
7代目松本幸四郎(1949年没)さんが有名です。
生涯約1600回にわたって弁契約を演じたことで知られ、
76歳での上演記録が今までの史上最高年齢でした。
その名優よりも2歳年上で演じたという大記録なのです。
歌舞伎役者にはご高齢の方が多いですが、
この弁慶という役をそれだけの年齢で演じられる方は
他にいらっしゃらないと思います。
現在、入院していらしゃる白鸚さんの実弟の中村吉右衛門さんも、
やはり素晴らしい弁慶を今まで演じられてきていて、
お孫さんと80歳で共演するのが夢とおっしゃっています。
弁慶は、歌舞伎役者にとっては
一度は演じたいと思われる役と言われています。
私も、この「勧進帳」という演目は大好きです。
時間的には1時間あまりの1幕の舞台です。
この中で、弁慶はほぼ喋りっぱなし、途中で問答や舞もはさみます。
感情的にも、時には頼り甲斐のあるリーダーであり、
命がけで主君を守る忠臣であり、
お酒に弱い酒呑みでもある様々な側面を見せてくれるのです。
観ている方にはちっとも飽きない、面白いお役ですが、
演じる方にとっては本当に大変なお役だろうなあと思います。
だからこそ、この高齢でその役を演じ切る、
ということ自体に感動してしまうのです。
*松本白鸚さんのプロフィールはこちらをどうぞ
*勧進帳についてはこちらもどうぞ
4月歌舞伎座公演:松本白鸚の勧進帳(2021)感想
それでは、松本白鸚さんの「勧進帳」を観た感想を書いていきます。
観劇したのは、4月5日(月)でした。
何よりも惹きつけられたのは、その気迫です。
この役を演じ切る、という覚悟を持って舞台に臨んだという白鸚さん。
初日について報じたニュースでは、
白鸚さんが、苦しげな息遣いながらも、全身で弁慶を演じる姿が見られました。
「今の自分が持っている力や魂、それに心をお客様お一人お一人にお伝えできれば」
とも語っていらっしゃいました。
それを見て、すごい覚悟で舞台に立っているんだなあということを
ひしひしと感じたのです。
その2日後に、私はその弁慶を生で拝見したのです。
舞台で見ると、その気迫はさらに増して感じます。
花道から登場のシーンは、大きな拍手で迎えられました。
客席の期待値も相当高かったんだと思います。
舞台に立つと、白鸚さんの弁慶はとても大きく頼もしく見えました。
今までにも見ていますが、
いつに増して弁慶の背中からオーラがギラギラと湧いて出るようでした。
私は、富樫と対峙する、
勧進帳を読む場面、山伏問答の場面が好きなのですが、
長いセリフも息が途切れることなく、
間髪入れずのやりとりに緊張感、
肩に力が入っていることに気づきました。
富樫役の松本幸四郎さんも、
朗々とした声を響かせ、
正義感溢れる武士を好演していました。
そのあとの、強力が義経に似ていると足止めされる場面では、
いきり立つ四天王を全身で止め、
義経を打擲する場面では一層声を荒げ、
この危機を乗り越えんとする弁慶に
心を打たれました。
ギリギリで踏ん張っている姿に、
白鸚さん、病床の吉右衛門さんなど、
身を削り芸を見せてくれる役者の魂を感じ、
涙が出てきました。
本当に尊い、尊い舞台であったと思います。
この命がけの芝居を観られる私は最高にラッキーでした。
緊張感たっぷりの危機を乗り越えた後、
義経の前に臥す弁慶と自らの不甲斐なさを嘆く義経の場面があるのですが、
ここでは、
雀右衛門さんの凛々しく気高い義経がその場を一瞬支配する感じがありました。
無骨で勇ましい弁慶や四天王がひれ伏す上官としての義経の空気感は、
この芝居の見所の一つとも思います。
義経がいるからこそ、弁慶たちの命がけの攻防があったのだ、、、ということを
納得させるに見合う雀右衛門さんの義経も素敵でした。
後半は、息詰まる心理戦から、
労い酒を振舞われるちょっと和みの場面にかわります。
お酒を目にし、もっともっとと催促したり、
大きな器でぐいぐい飲んだりする姿は、
白鸚さん生来の茶目っ気も感じられました。
いい気になって、舞を舞いながら、
実は機を計らって義経らを逃す弁慶、
細部まで気を配り主君を助けるのですよね。
単に酔っ払ってるわけじゃない、
て知能的にも優れている英雄の側面をうかがわせます。
とにかく全てが主君義経を助けるための命がけミッション。
そんな弁慶そのものが舞台にいると思えた貴重な1時間でした。
どなたかがおっしゃっていた、
「どこを切り取っても弁慶」という言葉の通り、
最後、花道をさって行く時まで
弁慶はずっと弁慶でしかありませんでした。
途中、背中を向けているときに、
シューっと強い音が聞こえてきて、そこで呼吸を整えている様子もうかがえました。
そういうところからも、
命がけ、身体を張って舞台を勤め切る白鸚さんが、
主君を守る弁慶と重なったのかもしれません。
見るべき名舞台があるとしたら、まさにこれだなって思う舞台でした。
松本白鸚・松本幸四郎が勧進帳を日替わりで務める4月歌舞伎座公演について
令和三年四月の歌舞伎座大歌舞伎では、
松本白鸚さん、松本幸四郎さん親子が日替わりで弁慶を務めます。
「勧進帳」というと成田屋十八番のイメージもあるのですが、
高麗屋のお家芸でもあるのです。
実際に演じている回数やその舞台の質の高さは、
高麗屋の伝統を表している芝居だとも言えます。
では、そのスケジュールもこちらに記しておきます。
白鸚さんが弁慶を勤めるのがA日程です。
こちらの配役は、以下の通りです。
勧進帳A日程の配役とスケジュール
武蔵坊弁慶 松本白鸚
冨樫左衛門 松本幸四郎
亀井六郎 大谷友右衛門
片岡八郎 市川高麗蔵
駿河次郎 大谷廣太郎
常陸坊海尊 松本錦吾
源義経 中村雀右衛門
上演日は、3・5・7・10・12・14・16・18・21・23・25・27日
勧進帳Bプロの配役とスケジュール
武蔵坊弁慶 松本幸四郎
冨樫左衛門 尾上松也
亀井六郎 大谷友右衛門
片岡八郎 市川高麗蔵
駿河次郎 大谷廣太郎
常陸坊海尊 松本錦吾
源義経 中村雀右衛門
上演日は、4・6・8・11・13・15・17・20・22・23・26・28日
*松本幸四郎さんについてはこちらもどうぞ
チケットは、
1階桟敷席 16000円
1等席 15000円
2等席 11000円
3階A席 5000円
3階B席 3000円
これからでもチケットはとれるようです。
ぜひ、松本白鸚さんの弁慶、一度は観てください。
読んでくださりありがとう存じまする。
コメント