いよいよ初代国立劇場の閉場が迫ってきました。
国立劇場は、広々とした客席や舞台、
音響もよく静かな環境のため
私も大好きな劇場でした。
その公立劇場さよなら公演の最後の歌舞伎演目は、通し狂言「妹背山婦女庭訓」です。
私は、9月・10月と感激した(する)ので
その感想をこちらに掲載します。
国立劇場「妹背山婦女庭訓」通し上演の前半、中村時蔵&尾上松緑が“親の情”演じる(舞台写真あり)https://t.co/oRCcslxtKP
— ステージナタリー (@stage_natalie) September 4, 2023
国立劇場さよなら公演9月公演「妹背山婦女庭訓」第一部の感想
国立劇場さよなら公演9月の演目と配役
演目「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)
序幕:春日の小松原の場
2幕:太宰館花渡しの場
3幕:吉野川の場
蘇我入鹿が帝に対する謀反を起こし、宮中が混乱する最中・・。
互いに領地を争い敵対する
定高の娘雛鳥と大判事の息子久我之助は恋に落ちます。
しかし、暴政を振るう入鹿は、
それぞれの親に、
雛鳥は側室として、久我之助は家臣として
自分に差し出すように命じます。
一方、思いを遂げたい二人は
吉野川を挟んでその気持ちを募らせるばかり。
しかし、
帝の側室采女局の付き人として守れなかった罪を
自らの命を引き換えに償おうとする久我之助は腹を切ります。
雛鳥は、思いを遂げるために殺してくれと母定高に頼みます。
そして、二人の親は悲壮な決意をするのでした。
詳しくは、こちらの記事からあらすじをご確認くださいね。
配役
太宰後室定高 中村 時蔵
蘇我入鹿 坂東 亀蔵
久我之助清舟 中村 萬太郎
腰元小菊 市村 橘太郎
采女局 坂東 新悟
雛鳥 中村 梅枝
大判事清澄 尾上松緑
他
国立劇場さよなら公演9月の感想
平成8年の上演から
28年ぶりの上演となった本公演。
登場人物の全てが初役、という意欲的なお芝居でした。
特に、定高と大判事役は、
本心を隠しながらの演技や、
自分の子を手にかけるという決断を
断腸の思いでするという表現など、
すごく難しいお役柄だと思いました。
私としては、
時蔵さんの定高は、誇り高くも愛情深い女性を
情感たっぷりに演じていたと思います。
若い松緑さんには大役と思われた大判事でしたが、
抑えた台詞づかいと
最後の感情大爆発とのギャップが
見事だなあと思える大判事でした。
ちょっと残念だったのが、
入鹿の大きさが足りなかったこと、、、
近寄るのも恐ろしい異能の悪としての
凄みや迫力が欲しいなあと思ったところです。
舞台美術は美しくて
特に吉野川の描写は本当に川が流れているかのように感じられました。
また、最後の悲壮的な場面は、
なんでこうなるの?
みたいな意識もあったんですけど、
それを上回る悲しみに心を揺り動かされ
思わず号泣していました。
歌舞伎の様式の見事さを
肌で感じた一場面でした。
通しだと長いお芝居ですが、
満足感たっぷりで劇場を後にしました。
https://twitter.com/orinosuke02/status/1705925607979352165
国立劇場さよなら公演10月公演「妹背山婦女庭訓」第二部の感想
いよいよラスト公演です。
お別れの気持ちで観劇したいと思います。
国立劇場さよなら公演10月の演目と配役
演目「妹背山婦女庭訓」
序幕 布留の社頭
道行恋の苧環
2幕 三笠山御殿
大詰め 奥殿・イルカ誅伐
大和国、布留の社に
入鹿の妹橘姫と、それを追う求女がやってきます。
その後から、求女に恋するお三輪も現れ
一悶着が起きます。
入鹿の御殿に鎌足の使いでやってきた鱶七は
実は鎌足家来の金輪五郎今国です。
橘姫は求女を奥に連れていき
求女の計略への協力を誓います。
その後を追ってきたお三輪、
橘姫と求女の祝言の祝いの声を聞き
嫉妬のため逆上します。
すると、鱶七がお三輪に刀を突き立てるのでした。
入鹿を倒すきっかけをうかがっていた鱶七の
絶好のチャンス、その理由とは?
あらすじを詳しくお知りになりたい方は、こちらの記事をお読みください。
配役
藤原鎌足 尾上 菊五郎
豆腐屋おむら 中村 菊蔵
杉酒屋娘お三輪・采女局 尾上菊之助
宮越玄蕃 坂東 彦三郎
求女実は藤原淡海 中村 梅枝
荒巻弥藤次 中村 萬太郎
入鹿妹橘姫 中村 米吉
大判事清澄 河原崎 権十郎
漁師鱶七実は金輪五郎今国 中村 芝翫
蘇我入鹿 中村 歌六
国立劇場さよなら公演10月の感想
第二部には尾上菊五郎さんが登場!
の予定が、体調不良により休演となってしまいました・・・。
残念です。
それでもさよなら公演ラストに相応しい演目と配役です。
私的には、菊之助さんのお三輪と米吉さんの橘姫に興味津々です。
そして、その期待は見事に叶えられましたよー。
始まりが、道行恋苧環。
舞踊からスタートです。
美しい男女が舞台に登場、
追ってくる男の名は求女(実は藤原淡海)、
追われる女は橘姫(実は蘇我入鹿の妹)。
ここではお互いの素性を知ってか知らぬか、
まあ、浮気性の求女が毎夜現る姫を追うという設定なので、
あり得ないとは思いつつもその美しさには見惚れてしまいます。
そこに現れるのが求女を恋したうお三輪、
町娘のなりですが
自分の男を取られてたまるかという強い思いで
目がギラギラしています。
器量よしの娘だけど、
嫉妬に身を焼かれる思いがその表情や舞にも表れているのですね。
そのお三輪を演じるのが尾上菊之助さん、
求女を慕う強い熱情がムラムラと伝わってくるようでした。
対する橘姫には中村米吉さん、
これがまた、初々しい赤姫なんですよー。
今や、可愛いといったらこの人に勝る方はおりませんね。
可愛いのに、毎夜求女の元に通うなんて
意志の強さも感じられます。
その間に立つ求女に中村梅枝さん、
普段は淑やかな女方がお似合いの梅枝さん、
男性になると涼やかな色気を携えた本当にいい男になります。
女性に惚れられちゃうのも仕方ないわよねーと
この幕は30分ほどなのですが、
3人の恋の鞘当てを堪能できる一幕でした。
続いてが三笠御殿の場。
白い鹿の生き血を飲んだ母から生まれた常人にはない力を持つ入鹿、
その入鹿をたおすための役者が次々に集まります。
まずは橘姫に追いついた求女こと藤原淡海、
ここでお互いの素性がわかるのですが、
橘姫は自らの思いを遂げるため
求女に協力を約束するのです。
続いて、漁師鱶七、
藤原鎌足の家来で入鹿打倒のために
御殿に入り込みます。
そして、嫉妬に狂ったお三輪、
なんとか求女を取り戻そうとするのですが、
姫と求女の祝言を祝う女官たちに邪魔され、
いじめられ、散々な目に遭ってしまいます。
このシーンは、ちょっと見るのも辛くなります、、、。
と皆が揃ったところで、
入鹿征伐作戦開始!
まずは、嫉妬に狂った女性の生血として
お三輪が鱶七の刃に倒れます。
鱶七は実は金輪五郎というのですけど、
入鹿の妖術を消すためには
爪黒の鹿の血と嫉妬に狂う女性の血を混ぜて
笛にかけ、それを吹きかけるという
世にも奇妙な方法が必要だと
お三輪を手にかけるのですね。
そして、
お三輪は、求女が藤原淡海という鎌足の子息で、
入鹿討伐というミッションを持ってこの館に潜入したことを知り、
自分が恋しい男の役に立てると喜びながら息を引き取るのです。
お三輪の恋心、尊すぎます。
いじめられ、嫉妬に狂い、そして恍惚の表情で倒れるお三輪を
菊之助さんが丁寧に演じ、
見ていて引き込まれました。
さらには、
求女から頼まれた十束の宝剣を兄から奪うものの、同じく命を落とす橘姫。
これも儚い運命の姫を
米吉さんが最後まで可愛く演じて哀れを誘います。
最後は、ラスボス藤原鎌足が、
采女局を連れ、入鹿を遂に倒します。
本当は菊五郎さんが、最後に締めるお役でしたが、
代役の中村時蔵さんが厳かに締めてくださいました。
長い長い物語、
国立劇場の歌舞伎さよなら公演に相応しい大作。
3人の女性の命をかけた働きが
世の平和を取り戻すというストーリーは
これからの世になんらかのメッセージもあったのかなって思いました。
第二部も素晴らしい役者さん、
語り部さん、お囃子さんらの息が揃った
見事なお芝居を堪能することができました。
名残惜しい、国立劇場。
今までありがとうございました。
2029年の再開場を楽しみにしています。
お読みくださり、ありがとう存じまする。
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