令和2年12月歌舞伎座で第三部の演目として上演されている
「傾城反魂香」を観劇してきました。
1時間10分のお芝居で、
主人公の又平に中村勘九郎、その女房おとくに市川猿之助という配役。
芝居上手な2人の演技に泣いたり笑ったり、心がじんわりしました。
特に印象に残ったことや、メディアなどの評判をまとめました。
傾城反魂香の感想、印象に残ったベスト3!
傾城反魂香の感想その1:又平とおとくの夫婦愛が温かい
勘九郎さんの又平と、猿之助さんのおとく、
この夫婦の情愛が見ている者にひしひしと伝わるいい芝居でした。
どもりでうまく喋れない又平は、
何か言う場面になるとおとくをぐいっと前に押し出す。
それを承知のおとくは、
又平をうまく立てながら、明るくおしゃべりを聞かせます。
また、絶望して又平が死のうとする場面では、
それを押しとどめて、自画像を描くように説得します。
その時の視線、言葉の言い方、手で優しく筆を持たせる所作等々、
胸がググッとくるくらい、夫への愛が伝わってきました。
おとくの視線の先には、常に又平がいます。
そして又平からも、おとくに全てを任せる圧倒的な信頼が感じられます。
二人で嘆くくだりはもちろん、
絵が奇跡を起こし、名前を許される場面でも、
夫婦一体となって喜ぶ姿が、心を打ちます。
二人の絡みを見ているだけで終始満足、幸せな気持ちになれました。
傾城反魂香の感想その2:脇の役者もいい味を出している
脇を固める役者もいい味を出しているなあと思いました。
監閑を演じる市蔵さん、厳しくも風格のある絵師そのもの。
時に冷たいくらいに又平を突き放すのですが、
心の底に弟子を慮る気持ちもうかがえます。
北の方の梅花さんも控えめながら、存在あり。
修理之介の鶴松さん、幼い表情ですが、
その腕前、そして師匠に言われて兄弟子を押しやっての出立、
若々しく律儀な青年像がきっちり描かれていました。
雅楽之介を演じた、市川團子さん。
このお役は勢いがありすっきりとした立ち振る舞いがよくお似合いでした。
足の長さにもびっくりです。
冒頭でてくる百姓の集団も演技上手が混じっていました。
最初からしっかり芝居に入れたのは、この幕開けの上手さも関係していたかも。
どの役者をみてもしっかりといい芝居を作っていると感じました。
こういうお芝居は観ていて自然に感情移入ができます。
今日も無事終わりました。四代目からのアドバイスもありここ2、3日前から又平との件りは少し感情を今までとは変えております。(誰かさんと同じアングル) pic.twitter.com/1Qgju2JQjX
— 中村 鶴松 (@tsurumatsu_18) December 10, 2020
傾城反魂香の感想その3:「絵」のしかけがおもしろい
このお芝居では、絵にまつわるエピソードが2つ出てきます。
1つ目は、絵から抜け出た虎を絵筆によって消すという者。
どうなるのかなあと思っていたら、
大きなぬいぐるみのような虎。
それが煙とともに消えるというマジックショーのようなしかけ。
もう一つは、手水鉢を突き抜ける又平の自画像。
又平は、客席から見て向こう側から一心に筆を進めます。
そうすると、客席に向いた手水鉢に絵の輪郭がじわじわと現れるのです。
それに気づいたおとくが腰を抜かしながらも、
又平に訴える場面も、猿之助さんの上手さを堪能しました。
絵を使ったエピソードがストーリーに効果的に取り入れられている
それが芝居でも楽しめるしかけが素敵だなって思いました。
傾城反魂香(歌舞伎座12月公演)の評判は上々!?
12月11日の東京新聞の記事では、
「勘九郎さんの愛嬌が生かされている、猿之助さんの情愛が細やか」
とよい評が紹介されていました。
勘九郎さん、愛嬌が良いと好評!猿之助さんも細やかな情愛と!<評>愛嬌生きる勘九郎 歌舞伎座「十二月大歌舞伎」ほか:東京新聞 TOKYO Web https://t.co/Vk9kCGWk4d
— kabukist (@kabukist1) December 11, 2020
ツイッターで見てみると、
「涙涙で最後ほっこり」
「勘九郎の又平、猿之助のおとく、まことに結構でした。」
「『手も二本、指も十本ありながら・・』と嘆くおとく。涙なしに見られない。4代目の所作が素晴らしい。勘九郎×猿之助の夫婦良いなあ。」
「とてもとても良かった。セリフがない場面でも視線や息遣いから、互いに思い合う夫婦の生活が見えてくる香ってくる。」
「猿之助は前回以上の完成度。勘九郎の又平は、『門出の舞』がうまく良い場面。圧倒的に又平らしい顔。」
などと、こちらもかなり好評です。
11年ほど前、勘太郎さん・亀治郎さん時代に共演して以来だとか。
それからお二人とも大きな役者になられましたが、
役の根をつかみ表現する力は以前以上に高まっていますから、
より心を打つ芝居となったんじゃないかなって思いました。
*そのほかの12月歌舞伎公演についてはこちらをどうぞ
傾城反魂香(けいせいはんごんこう)とはどんなお芝居?
傾城反魂香は、元は浄瑠璃芝居として書かれた演目で、
3段からなる物語です。
原作者は近松門左衛門です。
その中でも、今回上演されている「土佐将監閑居の場」の人気が高く、
度々上演される演目です。
この場の主人公は浮世絵師の又平とその女房おとくです。
又平は土佐将監の弟子、
生まれつきのどもりが原因でせっかくの絵の腕もいかせず、
大津絵を描くことで生計を立てています。
女房おとくは、明るくおしゃべり、そんな又平を支えています。
ある日、将監の家の裏庭にとらが現れます。
それは、狩野元信が描いたものと見破った将監、
弟子の修理之介が筆で描き消すと、
その腕を褒め、土佐の名字と印を与えます。
又平も土佐の名字が欲しいと、将監に訴えますが実績がないとはねられます。
そこに、狩野元信の娘が連れ去られたという知らせ、
救いに行くと立候補する又平ですが、これもダメ。
将来に絶望した又平は死のうとします。
おとくは又平に、手水鉢に自画像を描くことを勧めます。
全てを傾け、描き終わるとその像が手水鉢の裏側にまで突き抜けていたのです。
それを見た将監は、又平を褒め名前を与えることにします。
又平、おとくは喜びます。
*もう少し詳しく知りたい方はこちらもどうぞ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なかなか芽が出ない又平、疎んじられる前半はちょっと見ていて辛いのですが、
後半絵を描き出してからの展開は、ハッピーエンドへまっしぐら。
最後は、とても心が温まるお芝居です。
令和2年12月は、南座の吉例顔見世歌舞伎でも、
このお芝居が上演されています。
他の役者さんも度々演じている演目なので、
見比べたら楽しいだろうなあって思いました。
読んでくださり、ありがとう存じまする。
コメント