春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)は通称鏡獅子といわれる舞踊劇です。
小姓の弥生が舞っている途中で獅子のせいが乗り移り、
胡蝶の精と舞い踊ります。
前半の可愛い女の子の踊りから後半は勇壮な獅子へ、
華やかで楽しい演目です。
春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)【歌舞伎】のあらすじ
春興鏡獅子は、舞踊劇です。
だからお芝居のように台詞やストーリーに沿って進むというよりも、
踊りの振りや長唄の歌詞がに寄って情景を描写するという流れになっています。
舞台は千代田(江戸)城の大奥です。
お正月の鏡曳きの余興にと女小姓の弥生が連れてこられます。
初めは恥ずかしがって逃げようとする弥生ですが、
覚悟を決めると踊り始めます。
袱紗や女扇子を使った舞を見せます。
長唄の歌詞からは、
神話や川崎踊り、御殿勤のつらさなどがうかがえます。
また、
「春は花見に、、」と季節の風景を歌った歌詞に合わせた所作が、
なんとも可愛らしいです。
ボタンが散る様子もしっとりと見せてくれます。
やがて、弥生は2枚の舞扇を使って踊り始めます。
途中で扇子をくるくる回したり、
一枚の奥義を放り投げてもう一方の手で受け取ったりと
曲芸的な動きも見せてくれます。
咲き誇る牡丹とそれに戯れる蝶の様子など、
ついつい見入ってしまう素敵な踊りです。
舞はクライマックスへと入っていきます。
獅子が住むという清涼山の石橋の様子を描き出します。
片手に獅子頭を持ち、
深い谷底にかかる橋の様子を描写すると、
どこからともなく蝶が飛んできて獅子頭へ止まります。
すると不思議、、、、
獅子頭が生きているかのように動きだし、
蝶を追いかけるではないですか。
戸惑う弥生は、獅子頭に引かれるように、花道を退場していきます。
すると今度は、
愛らしい胡蝶の精が現れます。
鈴太鼓と鞨鼓を使った可愛らしい踊り、
軽快な足踏みと振りがとても可愛らしいのです。
そうしているうちに、
今度は花道から獅子のせいが現れます。
勇壮な動作で貫禄を見せる獅子。
胡蝶らは獅子を恐れずまとわりつきます。
獅子は、白い毛を振り立て「狂い」という激しい舞を見せます。
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歌舞伎では、弥生と獅子の精を1人の役者が演じます。
前半の可愛らしい小姓の舞から、
後半は勇ましく壮大な獅子の舞を見せるのです。
代々踊りの名手がこの舞踊で、
歌舞伎舞踊の醍醐味を見せてくれました。
尾上菊五郎さんや尾上菊之助さんも
お得意にしているお役です。
私は、18代目中村勘三郎さんの鏡獅子が好きだったんですよね~。
シネマ歌舞伎にもなっているので、
ぜひ、その踊りを見ていただきたいなあって思います。
春興鏡獅子【歌舞伎】の意味は?
鏡獅子では前半は弥生という名の若い小姓、後半は勇壮な獅子の精がでてきます。
しかし、これは明治に活躍した9代目市川團十郎が、
演劇改良運動(新しい時代の人々が鑑賞するにふさわしい上品な内容にしようとする動き)にのっとり、
原作を大きく変えてこのような形になったということです。
それまでは、傾城が恋しい人への思いを募らせ、獅子となって舞い踊る、、、
というような流れだったのだそうです。
でも、それじゃあ、、ということからの役割設定。
それが好評で今の2つの違う性格の役を演じ分けるという形になったらしいです。
鏡獅子という名がついたのは、
おそらくお正月の鏡曳きという行事に関連してのことでしょう。
鏡曳きの日に現れた獅子ということで鏡獅子というそうです。
江戸時代、城内ではお正月の行事として、鏡餅を板に乗せて引いて歩く行事があったそうで、
この劇の始まりも、その行事の余興、、という流れなのです。
この春橋鏡獅子は、9代目市川團十郎から6代目尾上菊五郎へと受け継がれ、
菊五郎のあたり芸ともなったそうです。
国立劇場には、彫刻家平櫛田中の手による「鏡獅子像」が配置されていますが、
このモデルが6代目尾上菊五郎なのです。
*この彫刻についてはこちらもお読みくださいね。
春興鏡獅子【歌舞伎】の登場人物、胡蝶って誰?
小姓弥生(こしょうやよい):
千代田城の大奥に仕えるお小姓さん。鏡曳きの日に、余興として上様に舞を披露することになる
獅子の精(ししのせい):
伝説の霊獣、長いたてがみを振り回し勇猛な舞を見せる。牡丹の花や誇張に戯れる愛嬌もありかも
胡蝶の精(こちょうのせい):
蝶々の精、2人の子役が務めることが多い
局吉野(つぼねよしの):
千代田城の大奥に務めるお局さま。弥生を連れてくる
用心関口十太夫(ようじんせきぐちじゅうだゆう:
胡蝶とは蝶々の精のことで、人間ではありません。
通常は、2人の子役が務めることが多いです。
愛らしい振りで踊るが、この踊りは大人にとっては相当の体力が必要なものらしいです。
春興鏡獅子【歌舞伎】は連獅子とどう違うの?
春橋鏡獅子も連獅子も、獅子物、石橋物と言われる舞踊劇です。
ここに登場する獅子は、中国の清涼山に済むと言われる霊獣です。
獅子は、仏教では、文殊菩薩の乗り物とされているのだそうです。
現世と浄土の世界を繋ぐのが石橋、
この下には千尋の谷があり、人間はとてもではないけれど
この橋を渡ることはできません。
連獅子は、この石橋、千尋の谷を舞台に、
親子の獅子が現れ、子を谷底に突き落とすという伝説や、
牡丹の花に惹かれて舞うという場面を、舞踊で表現した演目です。
2021年2月の歌舞伎座では、
中村勘九郎さんの長男の勘太郎君が、史上最年少で仔獅子役を務めたことが
話題になりましたね。
*中村勘九郎さん、勘太郎さんの連獅子についてはこちらをお読みくださいね。
一方鏡獅子の舞台は千代田城の大奥です。
先にも書きましたが、
お正月の行事である、鏡曳きの時に現れた獅子ということなので、
設定や場所が違いますね。
共通しているのは、
獅子の長いたてがみと、そのたてがみを使った勇壮な舞を見せるということ。
激しい毛振りが表しているのが「狂い」の状態です。
いわゆる何かに取り憑かれたような、神がかりになっている状態です。
その毛振りも振り方で種類があるのだそうです。
左右に振ることを「髪洗い」、ぐるぐると回すことを「巴」、
舞台に叩きつけるように振ることを「菖蒲叩き(菖蒲打ち)」と言います。
どれをとっても、かっこいいですよね。
見ていると我を忘れて拍手をしてしまう見せ場です。
獅子物は、ストーリーがわからなくても、
舞踊の見応えがあるので、初心者にもオススメの演目だと思っています。
似ているようですが、設定が違うと楽しみどころも違うので、
それぞれの違いを知って観ると、より楽しさが増すと思います。
春興鏡獅子【歌舞伎】の見どころをまとめると!
春橋鏡獅子の見どころをまとめると次の3つになると思います。
これはあくまでも私見ですので、その点ご承知くださいね。
見どころ1:小姓弥生の舞の情景描写
前半は、小姓弥生の舞です。
初めは恥ずかしがっているものの、
だんだんと舞に入り込みあの手この手の踊りを見せてくれます。
長唄の歌詞を聞きながら観ると、踊りが描写している心情や情景がわかるので、
目も耳もしっかり働かせて楽しんで欲しいです。
見どころ2:獅子の精の勇猛な踊り
獅子がたてがみを振るところは、文句なしにかっこいいです。
花に狂う獅子の毛振りに注目しましょう。
見どころ3:胡蝶の精の踊り
胡蝶の精は、通常子役が踊ります。
赤い衣装を身につけて軽快に踊る姿が可愛いのなんのって・・・
子役さんは、舞台に出てくるだけで場が和みますが、
この踊りは意外に難しいという噂があります。
梨園のお子さんにとって、これを踊れるというのは、
しっかり稽古をして、その力を身につけているという証にもなります。
だから、誰が踊るのかなってことも気になっちゃうのです。
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春橋鏡獅子は、華やかで見所の多い舞踊劇です。
初心者にも楽しめる内容なので、
是非ご覧になるといいと思います。
読んでくださり、ありがとう存じまする。
*令和3年5月歌舞伎座公演の「春橋鏡獅子」感想もあります!
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